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THE WORLD  作者: SEASONS
4月17日
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妹想い

《サイド:天城総魔》


何を考えているのか知らないが、

徹は複雑な表情を見せていた。


「あー、いや、でも、んー。今のままが良いのかな?可愛すぎても変な虫が付きかねないですしね」


可愛すぎるのも困るということだろうか?


苦笑する徹の言葉を聞いて、

栗原薫の姿を思い出してみる。


身長は優奈や悠理と同じくらいだろうか?


翔子や沙織に比べると小柄なのは間違いないだろう。


肩で切り揃えられた髪に癖はなく、

職業的な性格が出ているのか清潔感が感じられる。


見た目は『美女』ではないかもしれないが、

明るい雰囲気や慈愛に満ちた表情は誰にも真似できない部分だろう。


翔子や沙織。


あるいは愛里や優奈と比べれば外見では負けるかもしれない。


だがそれは、比べればの話だ。


その辺りにいる女性と比べれば十分可愛い部類に入るはずだ。


それに、そもそも見た目だけが全てではないだろう。


本質とも言うべき内面を俺はすでに知っているからな。


薫の笑顔には『優しさ』がある。


『思いやり』に満ちた心が笑顔に現れていることを知っている。


だがそれはきっと、

もっとも身近にいる徹が誰よりも知っているはずだ。


そう思うからこそ薫の用意してくれた服に視線を落としてみた。


僅か一晩でつくろった服。


両手一杯の傷痕きずあとを自慢げに見せていた薫の『優しさ』がこの服には詰まっている。


その気持ちを感じるからこそ。


改めて徹に礼を言っておこうと思えた。


「まだ礼を言っていなかったな」


「は?お礼…ですか?」


戸惑う徹に目を伏せて想いを伝えておく。


「薫には世話になったからな。」


直接本人に伝えるべきだが、なかなか機会がないからな。


代わりといってはなんだが、徹には言っておきたいと思う。


そのために。


せめてもの感謝の気持ちとして、想いを言葉にした。


「感謝している。薫にも、徹にもな」


口数少ない俺の言葉で気持ちが伝わるかどうかはわからない。


だが俺の言葉を聞いてくれた徹はしっかりと笑顔を浮かべてくれた。


「いえいえ。僕達は僕達の考えで動いているだけです。そう言われると逆になんだか申し訳ないくらいですよ」


照れくさそうに笑う徹の笑顔を見たことで、俺も自然と微笑みを浮かべていた。


「それぞれの考えがあるのは俺も同じだ。だからこそ感謝の気持ちは伝えておきたいと思う」


素直な思いを言葉にすることで和やかな雰囲気になる室内。


俺と徹の笑顔によって、

朱鷺田や三倉、愛里達も自然と笑顔を浮かべ始めた。


「良いわね~。男の友情って感じ?そういうのも憧れるわ」


「そうですね。」


三倉に続いて愛里が言葉を続ける。


「私も、薫ちゃんに逢いたくなりました」


笑顔を浮かべる愛里を見て気になったのだろう。


朱鷺田が薫のことを尋ねていた。


「…それで、その薫というかたは?」


「…ぁ…!?」


何気ない質問だったのだが、

その質問を聞いた瞬間に愛里の表情が笑顔のまま凍り付いた。


「…ぅぅ…」


戸惑う愛里の表情の変化に首を傾げる朱鷺田と三倉。


次の瞬間に徹が勢いよく席を立った。


「薫は僕の妹なのですが…」


嬉々として妹の話を語り出す。


「学園1位の出来の良い妹でして、それはもう魔術医師としては超が付くくらい優秀な才能を持ち…」


ひたすら妹の自慢話を語り続けるつもりなのだろうか?


「性格も非常に素晴らしく。笑顔が可愛いとても良い子に育ちまして…」


徹の演説は徐々に熱を帯びていく。


薫が生まれてから十数年の歴史。


そして現在の趣味や交遊関係など。


あらゆる情報が次々と暴露されてしまう。


「あ、あの…っ!」


徹を止めようとする愛里だが、

語り始めた徹の言葉は止まることを知らないようだ。


自慢話は延々と続いてしまった。




そして…。




2時間にも及ぶ徹の演説は未だに終わりが見えない。


そのせいだろうな。


いかに徹が妹を愛しているかを嫌というほど思い知らされたのだろう。


朱鷺田はため息交じりに愛里に問い掛けていた。


「彼はいつもこうなのですか?」


「あ、はい。すみません。徹さんは…薫ちゃんのこととなると、止まらなくなるんです」


申し訳なさそうに謝る愛里だが、そもそも謝る必要はないだろう。


愛里が謝る理由はないはずだ。


だがそれでも愛里は何度も謝罪し続けていた。


「すみません。私がもう少し気をつけていれば、こうはならなかったのですが…」


徹の性格を知っていながら止められなかったことに関して責任感を感じているのだろう。


愛里は何度も何度も謝罪している。


だがそんな愛里の背後で、

徹は今もまだ嬉々として語り続けていた。


妹の自慢話を延々と続ける徹。


その話を聞き流す朱鷺田と三倉は、

愛里の表情が変化した理由の意味を嫌というほど理解したようだ。


「その話題にはもう二度と触れません」


「…そうね。」


「あ、あははは…っ」


心から誓う朱鷺田の言葉に、

三倉と愛里は苦笑するしかなかったようだ。


「あっ、で、でも!あくまでも妹としてという意味であって、別に女性として見てるわけではない…と思います。たぶん、ですけど…。きっと…そのはず…です…よね?」


自信なく呟く愛里。


それがどちらの意味なのかは徹の言葉からは判断出来ない。


どちらともとれる発言が続いているからな。


それでも朱鷺田と三倉は、

無理にでも妹想いだと信じることにしたようだ。


いつまでも尽きる様子のない徹の演説だが、

のんびりと話を聞いていられるほど時間に余裕があるわけではないのも事実だ。


そろそろ止めるべきだろう。


「もう十分だ。薫のことは十分理解できた」


俺の言葉がきっかけとなったのか…。


「ご理解頂けましたか!」


徹の表情が最高に輝いていた。


「ありがとうございますっ!出来ることなら本人を連れて来たいところですが…それが出来ないのが残念でしかたありません!」


まだまだ演説を続けたそうな徹だが、

ようやく話が止まったことで朱鷺田と三倉は激しくため息を吐いている。


「「…やっと終わった…」」


それが二人の素直な気持ちなのだろう。


「…ふう…」


一息ついて席につく徹は満足気だ。


気が付けば相当な時間が過ぎていたらしく。


外は太陽の光で満たされ暖かい陽射しが窓から差し込んでいた。


「一体…今、何時なの?」


時間を気にする三倉だが、

ここには時計がないからな。


正確な時間は分からない。


それでも相当な時間を浪費したことだけは間違いないだろう。


「う~ん。どうする?」


唸る三倉に先を促す。


「ひとまず今後の予定を立てるしかないだろう」


俺の言葉をきっかけとして、室内に緊張感が戻った。


「そうですね。早めに作戦を立てたほうが良いでしょう」


朱鷺田の賛同を得て、昨晩の活動を報告しあうことになった。


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