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THE WORLD  作者: SEASONS
4月17日
811/4820

そうでなかった場合

《サイド:天城総魔》


どうやら徹も愛里も無事だったようだな。


「お疲れ様です。お怪我はありませんか?」


「ああ、問題ない」


心配してくれる愛里に微笑みを返しておく。


「良かったです」


笑顔を見せる愛里の笑顔はどこか懐かしさを感じてしまう雰囲気があるな。


この笑顔は…どことなく優奈に似ているのかもしれない。


控えめに微笑む仕草が優奈の表情を思い起こさせる。


そんな愛里の笑顔を眺めてから空を見上げてみた。


この空の向こうに。


共和国に残してきた仲間達がいるはずだ。


御堂、翔子、優奈。そして沙織と北条。


共に学園生活を過ごして共に魔術大会を戦ってきた仲間達。


友と呼べる仲間達が今どこでどうしているのか俺は知らない。


遠く離れた地にいる俺には知ることの出来ない事実だ。


調べようと思えばいつでも魔力の波動は追跡できるものの。


確認したところで何かが変わるわけではないからな。


調べるだけ時間の無駄だろう。


できることなら、もう一度ジェノスで会いたいと思うが…。


どうだろうか。


もう一度、会える日は来るのだろうか?


ふと思う疑問だが、その考えはすぐに振り払うことにした。


もう二度と会うことはないからだ。


俺の戦いに巻き込まないために仲間の前から立ち去ったのだ。


だからもう二度と会うことはない。


そして…。


会う理由もない。


仲間を守るために別れた言えば格好良いかもしれないが。


実際にはそうではないからな。


誰かを守るなどという言葉は自分には相応しくないと思っている。


俺の目的はあくまでも『復讐』だ。


そしてそれは自分自身の『自己満足』でしかない。


たまたま目的が重なったことで共和国に手を貸す形になっているが。


もしもそうでなかった場合。


俺は自分の目的を果たす為だけに、

戦争の引き金を引いていたかもしれない男だ。


全ては偶然が積み重なって、

たまたま今の状況があるに過ぎない。


最初から一人で戦うつもりだったのだ。


そして孤独に死んでいくつもりだった。


だがそんな曖昧な予定に反して、

俺の周りには守るべき者達が増えてしまった。


もちろんそれは御堂達だけではない。


徹や愛里に朱鷺田や三倉。


新たな仲間達も同様だ。


彼等も死なせたくはないと考えている。


多くの出会いと共に増えた守るべき者達。


だが…。


それら全てを守れると思うほど自惚れてはいないつもりだ。


そのことは自分で理解している。


一人の力では出来ないことがあるからな。


どれ程の力を手に入れても守れないモノはある。


だからこそ俺は別れを選んだ。


失わない為に、だ。


同時に失わせない為でもある。


そのために俺は別れを選んだ。


戦場に立たなければ死なずに済むからな。


共和国へと戦争の火種が飛ぶ前にアストリア王国を叩くことが出来れば、

多くの仲間の命を守ることが出来るはずだ。


そう考えていた。


だから全ては自己満足でしかない。


自分の目的の為に戦うことを選び。


仲間を置き去りにしてきたのだ。


こんな俺の行動が他者のためだとはとても思えない。


だから俺にできることは限られている。


大切な者達の幸福を祈ることだけだ。


遠く離れた地にいるであろう『友』の顔を思い起こしながら、

徹や愛里にも聞こえないほど小さな声で呟いてみる。


「…幸福な日々を…」


それが俺のただ一つの願いといえるだろう。


御堂達の幸福だけを願ってから現在の状況と向き合ってみる。


…と言っても、すぐ傍にいる徹と愛里に視線を向けてみただけだが。


俺はこの2人を守れるだろうか?


絶対に守るとは言い切れない。


だが守りたいとは思う。


そんなふうに考えながら、2人に話し掛けることにした。


「これから行う潜入に命の保証はない。おそらく生きて帰れる可能性のほうが低いだろう。」


敵は本物の軍隊だ。


ごまかしは効かない。


「一度騒ぎになれば王都からの撤退はほぼ不可能だ。待ち受ける結果は死でしかない」


「「………。」」


俺の言葉を聞いて唾を飲み込む2人。


それでもその表情に迷いは見せなかった。


「僕は行きます!!例えこの命が失われるとしても僕には守りたいモノがあります!だから…だから、ここで引き下がるつもりはありません!!」


力強く宣言する徹に続いて愛里も宣言していた。


「私も連れていって下さい!私では足手まといかも知れませんが…それでも私もお役に立ちたいんです!私に出来ることを精一杯やりたいんです!!」


一生懸命に訴える愛里の気持ちを聞いたことで、それ以上の説得は諦めた。


2人の想いは本物だ。


必死に願う想いを否定することは俺には出来ない。


少なくとも、俺自身も似たような理由でここにいるわけだからな。


「悔いが残らないようにすればいい」


呟く俺の視界に朱鷺田と三倉の姿が映る。


「…来たな…」


立ち上がった俺の姿に気付いたのだろう。


朱鷺田と三倉の二人は笑顔を浮かべながら歩み寄ってきた。


「皆さん、ご無事で何よりです」


「ホントに良かったわ」


笑顔を浮かべる朱鷺田と三倉。


二人の笑顔を見たことで、徹と愛里も笑顔で答える。


「これで全員揃いましたね」


「無事に再会出来て良かったです。安心しました!」


笑顔で互いの無事を喜び合う4人の姿を眺めてみる。


そして再び自問してみる。


ここにいる仲間達を守れるのだろうか?…と。


復讐という名の目的に巻き込んでしまった徹達。


それぞれの理由で戦争に参加しているとは言え。


死なせたくないとは思ってしまう。


「行くぞ」


無事に合流した仲間と共に行動を開始する。


徐々に人通りの増えていく町並みの中を人目を避けながら進んでいく。


目指しているのは、とある『家』だ。


徹と愛里が偵察中にたまたま見掛けたという廃屋。


ひとまずその廃墟を隠れ家として使用する為に。


俺達は徹の案内によって移動することにした。


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