救援要請
《サイド:鈴置美春》
これはほんの一時間ほど前の出来事になるわ。
今日は試験会場に行くつもりがなかったから休憩のつもりで医療班の仕事仲間達と一緒に医務室でのんびりと休んでいたんだけど。
そこに突然、救援の要請が入ったの。
怪我の容態や状況とか色々と不明な部分があったけどね。
複数の生徒が重体だっていう連絡が入ったのよ。
その知らせを聞いた私達は急いで目的の会場へと向かうことになったわ。
そして問題の第2検定試験会場にたどり着いたんだけど。
私が試合場にたどり着くのと入れ違いに天城総魔が試合場を離れていったわ。
そのことに気付いてはいたけれど、
その時点ではまだ天城総魔が関わってるっていう情報はなかったし。
生徒達の救助を最優先しなければいけないっていう状況にあったから天城総魔に話しかけに行く余裕はないまま倒れている生徒達に駆けつけたのよ。
で、ね。
ここで私は疑問を感じたわ。
何故か試合場には『8人』の生徒が倒れているのよ?
8箇所の試合場で生徒が倒れているのなら何も疑問は感じないけどね。
だけど今回はそうじゃないの。
意識不明で倒れている8人の生徒達は一箇所の試合場に点在していたのよ。
その状況だけを見れば各試合場から集められたわけじゃなくて、
倒れた場所そのままの場所で放置されているように思えるわよね?
だからそのことを不自然に思った私は周りにいる係員達に尋ねることにしたの。
検定試合は『1対1』で行われているはずなのに、
それなのにどうして8人の生徒が倒れているの?ってね。
その問い掛けに返ってきた答えは私を驚かせるのに十分な内容だったわ。
天城総魔は『8対1』で試合を行っていたからよ。
そのうえで圧勝ともいうべき結果を残して試合場を去って行ったみたい。
試合後に試合場に残されたのは全ての魔力を失って昏倒する生徒達だけ。
その惨状を再び目にした私は背筋に冷たいものが走り抜けるのを実感したわ。
だけどそれは私だけじゃなかったらしくて、
一緒に駆け付けた他の医療班のみんなも同じ思いだったようね。
誰も何も言えずに静寂が辺りを包む中で黙々と救助作業は進んでいったわ。
そうして8人の生徒達は医務室へと運び込まれる事になったの。
ここまででも十分すぎるほど異常事態だと思うんだけどね。
その直後に再び異変が起きたわ。
別の検定会場からも更なる救援の要請が入ったのよ。
その出来事はだいたい30分程前の話になるかしら?
先程の生徒達と同じように全ての魔力を失った生徒達が倒れているという情報を受けて私達は再び会場に向かって走り出したのよ。
報告を受けてから到着までに10分もかからなかったと思うんだけどね。
私が第1検定試験会場に着くと何故か天城総魔は会場の入口で休憩していたわ。
一応顔見知りだから彼に話し掛けるかどうか悩んだけれど、
あくまでも救急班としての役目があるから倒れた生徒達の回収を優先して目的の試合場に向かうことにしたの。
そして、そこで見たのは先程と全く同じ状況だったわ。
違うのは『8人』じゃなくて『5人』という事だけね。
でも、人数は問題じゃないわ。
倒れているのは最上位に位置する生徒達なのよ?
8人が5人になったからといって簡単に勝てるような試合じゃないはずなの。
それなのに試合結果は5人の敗北で終わっているのよ。
もちろん彼が圧勝したことは確認するまでもないわよね。
なぜなら彼は会場の待合所で堂々と休憩してるんだから。
少しでも苦戦していたなら格下からの挑戦を回避する為に会場を出ているはずよ。
だけど彼はそうはしなかった。
勝負から逃げるような態度は見せずに堂々と待合所で休んでいたの。
まだまだ戦える余力があるのは一目瞭然よね。
だから私達は彼に話しかけることを後回しにして倒れている5人を救助して医務室へと引き返す事にしたの。
その間に彼はずっと会場にいたんだけど誰一人として彼に近付こうとはしなかったわ。
私としては彼を避けるつもりはなかったんだけど、
医療急班としての仕事があるから寄り道をする暇はないし。
そのまま医務室へと戻ってきたっていうのが現状ね。
そして現在に至るっていう流れになるわ。




