敵地での遭遇
《サイド:栗原徹》
ふう。
ひとまず休息は十分でしょうか?
朝食を終えたあとで僕と愛里ちゃんは二人で初めて訪れた町の中をのんびりと散策していました。
特に目的がないことで適当に歩いていたのですが、
色々なお店を見て周りながら散歩を続ける途中で不意に一人の男性が接近してきました。
「…徹…。…愛里…。」
え?
小声でしたが確かに呼び掛けられてしまったんです。
どうして僕達の名前を知っているのでしょうか?
見知らぬ町での突然の呼び掛けのせいで一気に緊張感が高まってしまいます。
「…誰ですか?」
緊張の面持ちで声の主へと振り返った瞬間に。
「「え…っ!?」」
僕と愛里ちゃんは側にいる人物を見て同時に驚きました。
アストリアの町で歩み寄って来たのは同じ医術学園に通う生徒だったからです。
名前は国光昭人。
学園での成績は8位ですね。
友達というほどではないですが、
それなりに仲がいいとは思っています。
「昭人!?なぜここに…!」
「しっ!」
驚く僕の口を慌てて押さえた昭人は、
周囲を警戒しながら小声で話を続けました。
「落ち着け。大きな声で騒ぐな。ここは敵地だぞ」
そ、そうでした…。
昭人に注意されたことで、
僕も慌てて小声で話すことにします。
「でも、どうしてここに…?」
「諜報活動に決まってるだろ。」
え?
あ、ああ、そうでしたね。
昭人もアストリアに派遣されていたのを思い出しました。
「しっかりしろよ?この国の各地にマールグリナの魔術師が潜入しているんだからな。下手な行動をとって味方まで巻き込むようなことはするなよ?」
え、ええ。
そうですね。
「申し訳ありません」
誰がどこに潜入しているかまでは把握していませんのでここで再会したことに驚いてしまいましたが、
言われてみれば確かにそうです。
この町にも10人程潜んでいるはずですし。
アストリア国内のどの町に向かったとしても、
ある程度の味方がいるはずでした。
「まあいい。それよりもお前達こそどうしてここにいるんだ?砦への潜入作戦は聞いていたが、何故マールグリナに戻らない?」
ああ、そうですね。
現状では昭人よりも僕達がここにいるほうが不自然でしたね。
…とは言え。
どうこたえるべきでしょうか?
説明すべきことは沢山ありますが、
さすがに道端で話せる内容ではないと思います。
「ここではちょっと。場所を変えませんか?」
「ああ、そうだな。ついてきてくれ、向こうに公園がある」
「分かりました」
昭人の案内によって、
僕と愛里ちゃんは人通りの少ない場所へと移動することになりました。




