伝えたい想い
《サイド:深海優奈》
お家の食卓で、両親と向かい合って座ります。
涙を拭って微笑む私の姿を、
両親は温かく見守ってくれているんです。
「ただいま。お父さん、お母さん」
何度も繰り返す言葉ですが、そのたびに両親も応えてくれました。
「お帰り、優奈」
「お帰りなさい」
お父さんもお母さんも優しく微笑んでくれます。
上手く説明できない私を無理に追求しようとはせずに、
ゆっくりと言葉を待ってくれる両親の表情は優しさに満ちていました。
私の両親は魔術師ではないごくごく普通の一般人です。
ですが、お父さんとお母さんが結婚してから生まれてきた私に魔力があったことで、
故郷を捨てて共和国に亡命したそうです。
魔術師狩りで私が殺されることがないように、
両親は私を守るためにジェノスに移住したという話を聞いたことがあります。
生まれながらにして魔力という特別な力を持つ私の存在を受け入れて、
優しく、そして温かく、愛情を注ぎつづけてくれた両親は私にとって本当に大切な存在です。
だから、出来ることならお父さんとお母さんには今よりももっと幸せになって欲しいと願っています。
「あのね。お父さん、お母さん。今日はね、どうしても会って話したいことがあったの」
両親の愛情を感じるからこそ。
精一杯の気持ちを言葉にしようと思っていました。
ですが、真剣な表情で向かい合う私の表情を見た両親は微かに戸惑っているように見えます。
「何かあったのか?」
「悩みがあるのなら相談にのるから、何でも言いなさい」
なかなか本題には入れない私を見て、心配してくれているようですね。
そういうことではないのですが、
もしかしたら悩みを抱え込んでいるように見えたのかもしれません。
「あ、あのね。違うの。悩みとか、そういうことじゃないの」
心配してくれる両親に苦笑しながら言葉を続けます。
「そうじゃなくてね、お礼が言いたかったの。」
悩みがあるとか、困っているとか、そういうことじゃないんです。
「あのね。お父さん、お母さん。私ね、自分がすごく幸せだと思うの。お父さんとお母さんがいてくれたから、だから私はここにいられるの。」
ずっと。
ずっと私を守って、愛してくれた両親がいるから私は今まで生きてこれたんです。
「お父さんとお母さんがいてくれたから、私はちゃんと頑張れるの。だから…ね」
一旦言葉を区切ってから、私は自分の気持ちを言葉にしました。
「ありがとう、お父さん、お母さん。私はすごく幸せです。」
心から、そう思っています。
「私にくれた沢山の愛情が今はすごく実感できるの。お父さんとお母さんの子供で良かったって、心から思えるの。だからね。これだけはどうしても言っておきたかったの。私は…深海優奈は…お父さんとお母さんの子供として生まれることが出来て…とても、とても幸せです」
「優…奈」
私の言葉を聞いていた両親は静かに涙を流してくれました。
私が何を抱えているのかは分からなくても、
私が伝えたい気持ちはちゃんと伝わったみたいです。
両親は言葉に出来ない思いを胸に抱えて涙を流してくれたんです。
「…だから、だからね…。」
精一杯の笑顔を浮かべながら、私は大切な言葉を伝えようと思います。
「私ね。お父さんとお母さんが…大好きです」




