責務
《サイド:天城総魔》
周囲に集まる者達は誰もが俺の敗北を予想しているようだな。
だが、周りの考えなど気にするつもりはない。
自ら望んだ試合を勝ち抜けるために堂々と試合場に歩み出るだけだ。
そして無言で開始線に立つと、
今回も審判員として北条が出てきた。
「今回も俺が審判をやってやるよ」
物好きだな。
あるいは世話好きとでも言うべきか?
翔子とは違うようだが何だかんだで協力的な人物なのは同じに思える。
「巻き込まれても構わないなら好きにすればいい」
「ははっ。そんなドジはしねえよ。それに、頭の固い連中に審判は務まらねえだろうからな」
…かもしれないな。
すでに係員達も試合の結果を予測しているだろう。
この試合は無謀でしかなく、
5人の生徒達が勝つに決まっていると考えているはずだ。
そんな係員達に審判を任せれば些細な出来事によって強制的に試合を中断させられかねない。
結果が出る前に判定で敗北では困るのは確かだ。
最後まで試合を終わらせるためには北条に間に入ってもらうのが得策だろう。
「判断は任せる。」
「おう、きっちり見届けてやるよ」
あっさりと引き受けた北条が笑顔を見せる。
一見すると、仲良く見えるかもしれない会話だが、
実際には友情などかけらも存在していない。
北条の目的は監視であり、
俺の人間性を確かめるために動いているだけだ。
俺にしても効率よく試合を進めるために北条を利用している立場だ。
互いに打算で動いているのが実情といえるのだが、
周りの連中はそうは思わなかったかもしれないな。
会話を行う様子を不思議そうに見ていた5人の生徒達は俺達に交互に視線を向けながら後に続くように試合場に入っていく。
現在の状況もそうだが北条との関係性に疑問を感じているようだ。
とはいえ、こちらから説明することは何もない。
北条自身もわざわざ話をするつもりはないようだからな。
むしろ困惑する生徒達を眺めて楽しそうに微笑んでいるように思える。
…意地が悪いな。
不意にそんなことを思ってしまったが、
ここで試合に負けてしまえば北条の面目も丸つぶれになるだろう。
それはそれで北条がどういう態度を見せるのか興味があるが、
だからと言ってわざと負けるのは面白くない。
全力で戦って負けるならともかく、
北条を困らせるためだけに負けるという選択肢は考えるだけ無駄だろう。
勝ち上がるためにこの試合を望んだのだからな。
その目的は叶えるべきだろう。
「布陣はそちらの判断に任せる。自由にしろ」
「だそうだ。桃花、お前が指示を出せ」
こちらの発言を引き継いだ北条が指示を出すと、
指名された生徒が何かを考え込んでから仲間達に指示を出していった。
その結果。
5人の生徒達がそれぞれ適当な位置についた事で北条が試合開始を宣言し始める。
「せっかくお膳立てしてやったんだ。ぐだぐだ言うだけ時間の無駄だからな。とっと始めるぜ!」
各生徒達の発言を全て遮って、
北条は右手を振り上げる。
「文句は試合のあとで聞いてやる!まあ、言えるだけの元気があればだけどな!」
問答無用で試合を推し進める北条が振り上げた右手を一気に振り下ろした。
「試合、始め!!」
北条の掛け声と共に始まった試合。
試合開始の合図の直後に、
今回も試合場を駆け出す。
そして突撃と同時に魔力を収束させていく。
先ほどと同じように右手に魔剣を出現させたのだが、
その瞬間に5人の生徒達の表情が一気に変わったのがはっきりとわかった。
「「「「「!?」」」」」
やはり予想していなかったのだろう。
無名の生徒がルーンを発動したことに驚く生徒達。
…だが、さすがに学園最上位というべきだろうか。
彼等は恐怖に陥る事なく、
すぐに意識を切り替えて反撃に出る。
「接近される前に沈めるぞ!!」
「ルーンに気をつけろ!!」
「男子は攻撃担当!!女子は補助!!良いわね!!」
「了解!」
先程の試合とは違い。
連携の採れた動きで次々と詠唱を行う生徒達。
彼らの手から続々と魔術が展開していく。
「足元を狙うぞ!!!」
攻撃を担当する3人の男子生徒が攻撃魔術を断続的に放つ。
その隙間を縫うように、二人の女子生徒が防御結界を展開する。
「シールド!!!」
二人同時に展開された結界すぐ傍に展開された。
だがそれは彼女達自身を守るためではない。
そしてそれは3人の男子生徒を守るためでもなかった。
結界が発動したのは俺の直近だ。
前方へと駆け抜ける俺の左右に結界を生み出していた。
ちっ!
絶対防御結界は物理的にも行動を阻害する効果を持っている。
それほど強固ではないが、
殴りかかった程度ではビクともしない防御力がある。
そのせいで左右へ移動するという選択肢が絶たれてしまった。
前進か後退か。
どちらかしか選べない状況だ。
魔剣で結界を斬るという選択肢は選べない。
それでは他の魔術に対する対応が遅れてしまうからな。
男子生徒達の放った魔術が足元を狙って飛んでくる状況だ。
そちらの対応を急がなくてはならない。
「アイシクル・フィールド!!」
「ライトニング・バースト!!!」
「メガ・ウイン!!!」
一人目の生徒が生み出したのは広範囲凍結魔術だ。
試合場についた両手から冷気が溢れ出して試合場を次々と凍結させていく。
その上を滑るように駆け巡る雷撃が追い討ちをかけようとする中で、
最後に放たれた暴風が頭上から試合場に向かって吹き抜ける。
くっ!
頭上も抑えられたか。
左右を阻まれた状況で上に逃げることもできない。
そして前方からは冷気と雷撃が迫っている。
個人戦一辺倒では考えられない連携だ。
複数戦闘を考慮していたかのような連携攻撃によってこちらの行動は完全に封じられてしまっていた。
ここで後退すれば別の魔術が飛んでくるだろう。
何の考えもなく退路が用意されているとは思えない。
おそらく後退した瞬間に何らかの攻撃を受けることになるはずだ。
後退は出来ない。
後方が罠だとすれば残された手段は限られている。
シールドを展開して耐え凌ぐのは簡単だが、それでは面白くないからな。
あからさまな罠に飛び込んでみるのも一つの手段ではあるが、
どうせ魔術に襲われるのなら前進したほうがいい。
前に進む方法はすでに右手にあるのだからな。
後退はしない。
全ての魔術を切り裂くまでだ!
試合場に魔剣を突き立てて迫り来る冷気と雷撃を分断する。
そして切り上げた刃で暴風を消滅させてから左右の結界もなぎ払う。
それらの行動を終了させるのに2秒とかからなかった。
僅かな時間で5つの魔術を破壊した直後に再び前方へと駆け出していく。
「思う存分、魔術を放て」
先程とは違う難易度を体で感じながら前進すると、
男子生徒の一人が怯んで後ずさった。
「くっ!バケモノかっ!!」
攻撃を恐れて後退する男子生徒だが、
その恐怖を感じ取った一人の女子生徒が怯むことなく前へと踏み出す。
「今のは時間差を利用されただけよ!!今度は各方面から一斉に追い込むわよ!!」
指示を出しているのは生徒番号27番の女子生徒だ。
さきほど北条からも指名を受けていた矢野百花という名の女子生徒が率先して指揮を執り始める。
「恵理子は足止め!!亮太は前方!!力と進は左右から挟撃!!良いわね!?」
「任せてっ!!」
「しゃあない!!やるぞっ!!」
「おう!!」
「っしゃああ!!!」
桃花の指示を受けて4人の生徒達が動き出す。
一度は逃げ腰になった新谷力も再び攻勢に出る。
なかなかの統率力だな。
おそらく彼女が司令塔として連携が行われているのだろう。
つまり、桃花を沈めれば残りは烏合の衆ということだ。
勝つのは簡単だろう。
だが、それでは面白くないと思う。
万全な状態の敵を制するからこそ戦うことに意味があるからな。
敵の弱点を突くのは戦闘において当然の判断だが、
敵の得意分野を潰してこそ勝利に価値が出るのも事実だ。
今回は真っ向から叩き潰すことにする。
司令塔は最後に叩くと決めて一気に加速する。
そして試合場を駆ける。
もちろんこちらの動きを止めるために放たれる魔術は無視できない。
各方面から一斉に降り注ぐ強力な魔術を魔剣で次々と切り裂いて行く。
「まずはお前からだ!」
突撃の勢いのまま振り下ろされる魔剣。
迫る刃を目の前で眺めさせられた彼方進の顔が青ざめた。
「くそぉっ!!」
全力で逃げようとするが、その行動は既に遅い。
すでに魔剣の刃からは逃れられない距離だ。
降り注ぐ魔術をかいくぐり。
瞬く間に彼方を捉えた魔剣は一撃で彼方の魔力を破壊し尽くして一人目の生徒を戦闘不能へと追い込んだ。
まずは一人目。
残りは4人。
まだまだ油断できる状況ではないが、
包囲網の一角が崩れたことで連携が弱まったことも事実だ。
これで背後に回りこまれる危険性が消えた。
次はどこを攻めるかだが…。
ざっと見渡してみると残る二人の男子生徒が布陣を変えて左右に回り込もうとしているのが見えた。
そして指揮官である桃花が前方に立ちはだかり、
その背後に援護役の恵理子が控えるように配置を変えている。
一人欠けてもすぐに対応してくる。
その判断力は今までの生徒達とは格が違うように思えるな。
だが、それは桃花一人だけだ。
左右に布陣する男子生徒や後方で待機する女子生徒はそれほど驚異的な存在だとは思わない。
矢野桃花という少女だけが他の生徒達とは異なる異質な存在に思える。
さすがは27番というべきだろうか?
他の生徒達も悪くはないだろう。
魔術の精度も魔術師としての実力も十分と言えるはずだ。
だが、状況の判断力において桃花は他の生徒達を凌駕している。
指揮能力だけで見れば間違いなく強者だと思えるからな。
状況の分析と的確な判断。
個々の能力を把握した上での指示と戦術を理解した布陣。
単なる試合ではない真の戦闘においての実力が垣間見えるほどだ。
ようやくまともな相手が出てきたと思うべきか?
27番ですでにこの実力だとすれば、
桃花の上にいる生徒達はどれほどの実力を持っているのだろうか?
目の前に立ちふさがる強敵の実力を認めることで、
その上に対する興味が膨らんでいく。
「状況が見えている。良い判断だな」
思ったことを素直に言ってみたのだが、
それが余裕と思われたのだろう。
桃花の表情が一段と険しくなった。
「どういうつもりで試合を挑んできたのか知らないけれど、私が担う『責務』にかけて、必ず貴方を制してみせるわ」
責務?
どういう意味だろうか?
桃花は何かを担っているのだろうか?
その答えはわからない。
だが、単なる試合による勝敗ではない何かを感じさせる言葉に思えた。
「お前も何らかの役目を持っているのか?」
確信があったわけではないのだが。
明らかに他の生徒達とは異なる雰囲気を持つ桃花を見て翔子や北条のような何らかの役目を持っているのではないかと考えた。
そしてその役目がなんなのかを問いかけてみると…。
「………。」
桃花は俺から視線を逸らして、
何故か北条を見つめていた。




