後悔の理由
《サイド:深海優奈》
はぅぅぅぅぅ…。
私はどうすれば良いのでしょうか…?
沙織先輩の説得によって翔子先輩は立ち直った様子なのですが、
私はまだ悲しみに暮れているままです。
こぼれ落ちる涙が止まりません。
総魔さんがいなくなってしまったことで、
どうしても落ち込んでしまうからです。
ですが。
私が感じる悲しみの理由は翔子先輩とは異なっていると思います。
私は以前から事実を知っていたからです。
以前…と言っても一日の差でしかありませんが、
それでも私は総魔さんがいなくなってしまうことを知っていたんです。
それなのに。
総魔さんを引き止めることが出来ませんでした。
何もできないまま総魔さんと龍馬先輩の二人の試合が終わってしまったんです。
そして総魔さんが学園に留まる理由さえもなくなってしまったんです。
総魔さんが離れていくことを知っていながら何もしなかったこと。
そのせいで何も出来なかったという後悔の気持ちを誰よりも強く感じていました。
私はダメな人間です。
魔術師としても…
そして人としても…
誰よりも総魔さんを尊敬して憧れていたのに…。
結局、何もできなかったんです。
出来ることならもっと傍にいたかったと思います。
出来ることならこれからもずっと一緒にいたかったと思います。
そんなふうに思えるこの気持ちが恋愛感情なのかどうかは私自身もまだ分かりません。
今までそんなふうには意識してなかったからです。
ただ憧れていただけなんです。
だから私の悲しみの理由は『何も出来なかった』という一点にあります。
総魔さんの力になることが出来ないまま。
総魔さんを助けるどころか、
総魔さんは私達を巻き込まない為に姿を消してしまったんです。
たった一人で戦場に向かう決意をして、
総魔さんは自らの危険を省みずに戦争に向かってしまったんです。
その行動は正義の為とか、この国の為とか、そんな理由ではありません。
総魔さんが戦う理由は復讐です。
そして心を許した龍馬先輩や私達を守ることです。
その為に総魔さんは一人で旅立ちました。
その事実を理解しているからこそ、
私は自分が許せずにいるんです。
何も出来なかったことの後悔。
悔しさと悲しさが大きくて龍馬先輩と同じように無力感だけが私の心を支配していました。
だからでしょうか?
「優奈ちゃん!」
隣で微笑む翔子先輩が私の頭を撫でながら優しく語りかけてくれたんです。
「こうなっちゃったのはもう仕方がないことだし。とりあえずは総魔の馬鹿を捜し出してから一発ぶん殴って全力で反省させてみない?」
え?
それは、その…
私は殴るとかそういうのはちょっと…
むしろ私が反省するべきだと思いますし…。
「そこまでは…」
「まあまあ、実際にどうするかはその時に考えるとして。ここで悩んでいても解決しないから。まずは総魔を捜し出すことが先決よ!そのあとのことは…それから考えても遅くはないわ」
あ、はい。
そうですね。
翔子先輩の言葉を聞いて、私は小さく頷きました。
まだ終わってないんです。
そう思うことで私も立ち上がる勇気を持てました。
まだ間に合うはずです。
「私も総魔さんに会いたいです」
「うんうん!一緒に捜しに行こ!」
「はいっ!」
泣いても何も解決しません。
だからまずは総魔さんを追い掛けるべきです。
「頑張りますっ」
「その意気よっ!」
笑顔で決意を示す私と翔子先輩。
そんな私達の姿を…
北条先輩が見つめているように思えました。




