まずは行動
《サイド:常盤沙織》
ここで泣いてしまうわけにはいきません。
悲しみを分かち合うことも大事だとは思いますけど、
一緒に泣き出すわけにはいかないと思うからです。
私の願いは『翔子の幸せ』です。
翔子には笑顔でいて欲しいんです。
だから今は翔子の為に向き合うことを選びました。
「翔子はもう彼のことを知っているの?」
訊ねてみると、翔子は小さく頷きました。
「…うん。知ってると思う」
曖昧な返事ですね。
ですが今の私や龍馬に比べれば、
翔子のほうが詳しいのは間違いなさそうです。
「そう。だったらこれから何が起きるのか。そして何をするべきなのか分かるわよね?」
「う、うん…。」
優しく問い掛けることで、翔子は再び頷いてくれました。
「分かってる。だけど…ね」
懇願するような視線でした。
恐怖に染まる翔子の瞳を見つめながら、私は精一杯の笑顔を見せることにします。
「あとのことはその時に考えれば良いと思うわ。」
まずは行動することが大事だからです。
「動き出さないことには結果なんて出ないって、彼が教えてくれたはずよ?」
それが精一杯の説得でした。
今の私にはそれが精一杯だと思います。
私はまだ何も知らないからです。
これから起こることも。
これから始まる出来事も。
もちろん彼の過去も何も知りません。
そんな私に言えることなんて、正直、何もないと思います。
だから今はこれが精一杯の説得でした。
ですがそれでも…。
それでも翔子は納得してくれたようですね。
私の心からの言葉を聞いて、
翔子の瞳に微かに光が戻ったのが分かりました。
「…私…」
囁くような声でしたが、
それでも私は嬉しく思います。
翔子が前へ進む決意をしたように思えたから、
私も嬉しくなって自然な笑顔を浮かべられたんです。




