失踪
《サイド:深海優奈》
「総魔さん!御堂先輩!」
私と翔子先輩が試合場に駆け付けた時にはすでに試合が終わっていました。
圧倒的としか言えない結果だったようです。
御堂先輩は総魔さんに敗北していたんです。
「…総、魔…?」
小さな声で呼び掛ける翔子先輩ですが、
総魔さんは振り返ってくれません。
「総魔さん…」
私の声にも反応してくれないんです。
総魔さんは私達を気にせずに倒れた御堂先輩に歩み寄って、
そっと手を差し出しました。
発動したのは『回復の光』ですね。
見覚えのある光によって御堂先輩の治療を終わると同時に、
御堂先輩が目を覚ましたようです。
「僕は…っ!?」
目を覚ました直後の小さなうめき声。
治療が終わって目覚めたはずの御堂先輩ですが、
何故か起き上がれないようでした。
「体が…動かない…っ?」
「ああ、しばらくはそのままだ」
「な、何をしたんだ!?」
「………。」
問い掛けられた質問には答えずに、
総魔さんは淡々と告げました。
「せめて最後の別れくらいはしておかなければ悔いが残ると思ったからな。御堂、北条、翔子、沙織、そして優奈。みな、俺が予想していた以上の成長を見せてくれた。短い期間だったが、共に過ごせたことを嬉しく思う」
「ま、まだだっ!まだこれからもっ!」
動けないまま叫ぶ御堂先輩に…総魔さんは別れを告げました。
「ここで別れだ。俺は俺の道を行くが、お前達はここで立ち止まれ。ここから先は地獄でしかない」
これから始まる戦争を地獄と表現した総魔さんは、
挨拶を終えたことで御堂先輩に背中を向けてしまいました。
「もう会うことはないだろう。御堂はこの国で幸せに暮らせ。それが俺の望みだ」
たった一人で立ち去ろうとする総魔さん。
誰にも何も言わずに戦場に向かおうとする総魔さんに初めて…
「総魔ぁっ!!!」
御堂先輩が名前を叫びました。
「僕はきみを追いかける!!決してきみを一人にはさせない!!」
心からの宣言だったと思います。
ですがそれでも…。
「………。」
それでも総魔さんは何も答えずに試合場を下りてしまいました。
「総魔!」
「総魔さん!」
翔子先輩と私が駆け寄ってみても、
総魔さんは足を止めようとはしません。
「待ってよ、総魔!!」
引き止めようとする翔子先輩が必死に掴んだその手を…
「放せ」
総魔さんは振り払ってしまいます。
そして、冷たい目で翔子先輩を睨みつけたんです。
「…ぁ…っ…」
初めて見る表情によって、私達は言葉を失ってしまいました。
ただ睨まれただけで、
心の底から恐怖を感じてしまったんです。
「お前達はここに残れ。それがお前達の為だ」
一方的に告げてから歩き出した総魔さんが私達から離れてしまいます。
その背中を見つめる私達は、
何故か体を動かすことが出来ませんでした。
どうしてかは分かりませんが…。
おそらく御堂先輩が動けないのと同じように、
私達も何らかの影響を受けているのかもしれません。
だからこそ。
私は精一杯の声で総魔さんに叫びました。
「私も、私も諦めません!!必ず!必ず捜し出します!!だから、だから帰ってきて下さい!!」
「総魔っ!!私も諦めてなんかあげないわよ!!絶対に追いかけるわ!このままさよならなんて、絶対に!絶対に許さないんだからね!!!」
「………。」
涙を流しながら訴える私達の言葉にも答えないまま…
総魔さんは会場から姿を消してしまいました。




