心を揺さぶる言葉
《サイド:御堂龍馬》
「始めよう」
審判のいない試合場で彼がルーンを構えた。
だけど、あれは何だ?
剣の先に滴るのは…血、だろうか?
彼はあの場所で何をしていたんだ?
色々と疑問を感じるけれど。
ひとまず今は迷いを振り払うことにする。
あれこれと考えていられるような状況じゃないからね。
今の僕に必要なことは、彼との試合に集中することだけだ。
ただそれだけでいい。
「きみが何を考えているのか?そしてこれから何をしようとしているのか?今は何も聞かないよ。今はただきみと戦うことだけを僕は願う」
戦う意志を告げてからルーンを発動させる。
僕の手に現れるのは『シャイニングソード』だ。
彼の持つルーンを遥かに凌ぐ巨大な大剣になる。
そんな僕のルーンを眺めた彼が微笑んでくれたような気がした。
「随分と成長したようだな」
…っ!!
彼の言葉が僕の心を揺さぶる。
動揺したとかそういうことじゃなくて、
純粋に嬉しいと感じてしまったんだ。
ずっと、ずっと聞きたいと願っていた言葉だったから。
僕の成長を認めてくれた彼の言葉が何よりも嬉しく思えたんだ。
彼と対等である為に。
ずっと求めてきた力の果てに。
彼が僕の成長を認めてくれた。
ただそれだけのことで、
僕は自分自身の力に自信を持つことが出来たように思える。
「僕も新たな力に目覚めたんだ。だからもう、以前の僕とは違うよ」
「ああ、そうだな」
僕の言葉を聞いて、彼は小さく頷いてくれた。
「認めよう。そして全力で戦うことを約束しよう」
あの日の約束を果たすために。
彼も新たな力を具現化する。
「彼方から此方へ…。」
誰もが畏怖するあの存在を召喚するようだ。
「いでよ、光の天使ヴァルキリー!」
左手をかざす『彼』の頭上で神々しい輝きが生まれた。
神聖な光と神々しいほどの魔力の輝き。
その中心で彼女が姿を現す。
何度見ても慣れはしない絶対の存在。
天使という存在はその美しさゆえに恐怖すら感じてしまう。
ただ見た目だけの存在だったなら、
こんなふうには思わないだろうけどね。
だけど彼の使役する天使は、
本物と言われれば素直に信じてしまうほどの『光』に満ち溢れているんだ。
『ふわっ…』と、試合場に降り立つその姿はまさしく天使そのもの。
非の打ちどころは一切ない。
ただそこにいるだけで神と遭遇したかのような威光を感じさせる
圧倒的な存在感と純粋な光を放つ膨大な魔力。
それほどの魔力を分け与えてもなお、
彼の魔力は減少してるようには思えない。
一体、彼はどれだけの魔力を抱えているのだろうか?
かつての試合とは比べものにならないように思える。
『魔力の総量』と意味でいえば彼の魔力は桁違いに膨らんでいるからだ。
僕はこの力で彼に勝つことが出来るのだろうか?
そんな疑問を感じてしまうけれど、
まずは自分を信じて彼と向き合おうと思う。
「きみを倒す!」
「ああ、実証してみせろ」
やってみせるさ!
それが僕の役目だ!
審判も係員もいないこの試合場で。
多くの人々の注目を集めながら。
僕達は『最後の決戦』を始めることにした。




