約束の刻
《サイド:美袋翔子》
ふう…。
色々と気になることはあるけれど、
ひとまず龍馬が勝ったようね。
「試合終了です!!!第3試合も勝利したジェノス魔導学園!!これにより、あと2試合を残しながらも決勝戦の勝利が確定しましたーっ!!!」
会場全体に轟く係員の進行によって盛り上がる会場。
ものすごい歓声が響き渡るのが、
私達のいる特別区域にも聞こえていたわ。
「優勝はジェノス魔導学園です!見事11回連続優勝を果たしました!!!次の大会に勝てば、大会史上初となる年間制覇も実現できます!その偉業が達成されるのかどうか、来月の大会に大いに期待がもたれるところですが、まずは今大会の優勝を賞賛しましょう!!!」
叫ぶように進行を進める係員の言葉が聞こえてきたことで、
みんなが勝ったのは分かったわ。
でもね?
嬉しいと思う気持ちはあるけれど。
今はそれどころじゃないのよ。
血まみれの惨状。
転がる死体。
それも問題よ。
だけどそんなことよりも、
今は総魔のことが心配で仕方がないの。
「…総魔?」
呼び掛ける私に総魔が振り向いてくれる。
いつもと何も変わらない表情に思えるけれど、
総魔の目はどこか私を避けているようにも感じられたわ。
私と優奈ちゃんを見つめる総魔の瞳が、
何故か悲しみに満ちているように思えたからよ。
「ねえ、総魔?」
もう一度呼び掛けてみる。
だけど総魔は何も言わずに、試合場に振り返ってしまったわ。
視線の先にいるのは龍馬だと思う。
たった一人で試合場に立つ龍馬を見てるみたい。
ひとまず審判員が試合場を下りたことで、
代わりに進行役の係員が試合場に上がろうとしてるんだけど。
今は真哉が引き止めてるみたいね。
試合場にいるのは龍馬だけなのよ。
そして龍馬の瞳もただまっすぐに総魔を見つめているように見えたわ。
「…行くの?」
「ああ。あの場所で強敵が待っているからな」
「龍馬と…戦うのね」
「ああ、そうだ。あの日の約束を果たす為に。俺は大会に来た」
うん。
そうよね。
学園で決着がつけられないから、ここまで来たのよね。
「もう一度、勝てる?」
「どうだろうな。やればわかることだ」
まあ、そうね。
「エンジェル・ウイング!」
総魔の背中に生まれる翼。
観戦席の先頭まで歩みを進めた総魔は、
真っ直ぐに試合場を見下ろしていたわ。
私や優奈ちゃんや他の誰でもなくて、
ただ龍馬だけを見つめているのよ。
「これが最後の試合だ」
龍馬との決着をつけるために。
総魔が試合場に向かって羽ばたいた。




