やる時はやる子
《サイド:深海優奈》
「ここから先は立入禁止だと言っているだろう!!」
立入禁止区域と書かれた通路の手前で、
私と翔子先輩は足止めを受けてしまいました。
「それでも通してって言ってるのよ!!」
「ダメだ!!」
必死に説得を試みる翔子先輩でしたが、
警備員さんに阻まれてしまって前に進むことが出来ません。
「ったくぅ!!分からず屋なんだからっ!!!」
イライラする翔子先輩ですが、
話し合いでは通れそうにありませんね。
「諦めて別の場所から…」
他の道から進む方法を提案してみたのですが、
翔子先輩は首を左右に振ってしまいます。
「この先へはここからしか行けないのよ。他に道はないわ」
はうぅぅ…。
そうなるとやっぱりここを通してもらうしか方法はないですよね。
「無理、ですよね?」
「立ち去りなさい」
控えめに尋ねてみても、
通してもらえそうにはありません。
このまま諦めるしかないのでしょうか?
「…こうなったら、力付くで…」
翔子先輩が小さな声で呟いたその時に。
『スドドドドォォォォォォン!!!!』
突然大きな音が通路の先から聞こえてきました。
「何だっ!?」
慌てる警備員さん達がが大急ぎで奥の通路へと走り出します。
残ったのは一人だけです。
とても大きくて強そうな人だけでした。
「言っておくが、ここは通さんぞ」
通路の前で立ち塞がったままです。
どうあっても通していただけないようですね。
説得はもう無理ですし…。
かと言って、力ずくでの突破も難しそうです。
…ですが。
私達は戦士ではありませんので、
力は弱くても何とか出来ちゃいます。
何とか隙を見て駆け出そうとする翔子先輩を横目に、
私はミルクを手放しました。
ぴょこん…と、私の手から通路に下りたミルクは、
トコトコと歩みを進めてから警備員さんに近づいて一度だけ鳴き声をあげました。
「みゃ~♪」
とても可愛らしい鳴き声だとは思うのですが、
可愛らしさとは裏腹に攻撃力は抜群です。
「なっ!?ぐあぁぁぁ…っ!!」
ミルクの力によって通路に倒れ込んだ警備員さんは、
重力の圧迫に耐え切れずにそのまま意識を失ってしまいました。
これで遠慮なく通路の先に進めます。
「あらら。優奈ちゃんって意外とやる時はやる子なのね~」
倒れた警備員さんの姿を見た翔子先輩に笑われてしまいました。
「あ、あははは…」
私は苦笑いを浮かべるのが精一杯でした。
そんな私の足元にミルクがトコトコと戻ってきて、
ぴょんっと私の手まで跳びはねました。
なかなかの跳躍力です。
見た目が猫だけあって、
運動能力がすごいですね。
「お帰りなさい、ミルク」
「みゃ~♪ 」
戻ってきたミルクの頭を撫でると、
ミルクは幸せそうに私の手の中で鳴いてくれました。
そんな私達を、翔子先輩が見守ってくれています。
「ふふっ。それじゃあ、この隙に先を急ぐわよっ!」
「はいっ!」
翔子先輩が走り出してしまいましたので、
私も急がなくてはいけません。
ですがその前に…。
「えっと、その…ごめんなさい…です。」
警備員さんに謝ってから、この場を離れることにしました。




