アストリアの使者
《サイド:天城総魔》
…ついに来たな。
2階にある一般立入禁止区画。
その中にある『特別観戦席』
ごく一部の人間しか入ることの出来ないこの場所にアストリア王国の王族が姿を見せた。
「奥へどうぞ」
「ああ」
各町の知事や学園長達が列を成して出迎える道を、
王族と側近が堂々と歩みを進めていく。
俺は観戦席の隅で様子を眺めているのだが、
どうやら俺の存在は気にしていないようだ。
誰も俺に目を向けようとはしなかった。
…それも当然か。
向こうからすれば俺の存在など道端の小石程度だろう。
だが、俺から見てもアストリアの使者は小物でしかなかった。
少なくとも、俺が復讐すべき相手ではなかったからだ。
一目でそうだと分かる衣装を纏う王族は、
美由紀よりも僅かに上の年齢に見える。
おそらく20代後半だろう。
推測だが、アストリア王国の王子だと思われる。
復讐すべき国の王子と考えれば殺す価値はあるように思えるが、
実際には無関係な存在とも言える。
15年も前の事件に当時10歳程度のこの男が関わっているとは思えないからな。
血族ではあっても当人ではないはずだ。
その程度の男に憎悪を抱くほど俺の心はまだ狂ってはいない。
殺すべき存在の一人だとは考えるが、
憎しみを抱くほどではないというべきだろうか。
自分でも複雑な心境だとは思うが、
それが素直な気持ちになる。
だからこそ、
話し合いが終わるまでは様子を見ようとも思えた。
使者の数は15名ほどだろうか。
王子の両脇を固めるのは屈強な戦士達だ。
歴戦の強者とでも言うべきか?
敵国の中においても堂々と鎧と武器で武装する二人の男の目には、
いつでも『戦える』気合いが見て取れる。
もちろん前後も屈強な戦士達が王子の守りを固めているのだが、
集団の先頭を歩く一人の男だけは異なる雰囲気を放っているのがわかる。
冷静な雰囲気と知的な表情。
話し合う必要もなく、
見ただけで頭の良さが感じられる。
おそらくはお飾りの王子ではなく、
この男こそが戦争の交渉役なのだろう。
歩みを進める男の目前に、
美由紀と宗一郎が歩みを進めた。




