心に空いた穴
《サイド:深海優奈》
午前11時を迎える頃に、
『コンコン』と部屋の扉が叩かれました。
「みゃ~♪」
音に反応して扉へと駆け寄るミルクは、
何度見ても意思を持って行動しているように思えます。
あくまでも『魔力の塊』のはずなのですが、
他の精霊とは何が違うのでしょうか?
謎です。
総魔さんがいれば教えてくれそうな気がするのですが…。
今ここに総魔さんはいません。
なので、私も先輩達も分からないままでした。
「みゃ~♪」
扉に向けてミルクが鳴き声をあげたことで、
沙織先輩が扉を開けてくれました。
「どうぞ」
「失礼します」
笑顔で出迎える沙織先輩の案内を受けて入ってきたのは昼食を運んできてくれた係員の方々です。
礼儀正しく室内に入ってくる係員の方達は、
手際よく料理をテーブルの上に並べ終えてから来た時と同じように静かに部屋を出て行きました。
「…飯か」
呟く北条先輩にいつものような元気はありません。
今まで感じたことのないような重苦しい雰囲気です。
総魔さんがいないというただそれだけのことで、
私達にとってとても大切なものを失ってしまったかのような
そんな寂しい気持ちが室内を埋め尽くしているのがわかります。
特に私と御堂先輩は目標としていた人だけに、
総魔さんがいなくなったという事実は心の中にぽっかりと穴が開くような思いでした。




