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THE WORLD  作者: SEASONS
4月15日
642/4820

第4回戦、第2試合

《サイド:深海優奈》


「それではただいまより、準決勝第2試合を行いたいと思います!ジェノス魔導学園から、深海優奈選手!ヴァルセム精霊学園から、金田淳子かねだあつこ選手!試合場へお願いします!!!」


私の順番が来てしまいました。


ですが…。


今の私には立ち上がる気力がありません。


総魔さんがいなくなってしまったことを考えるだけで心が一杯になってしまって、

とても試合が出来るような気分ではなかったからです。


「…私…」


今は呟くだけで精一杯でした。


そんな私の背中を、沙織先輩が優しくさすってくれています。


「良いのよ。無理をしなくて良いの。今は棄権してもいいわ」


…はい、と。


優しく接してくれる沙織先輩に頷こうとしたのですが。


「いや、駄目だな」


その前に北条先輩に遮られてしまいました。


「優奈は試合に出るべきだ」


「はぁ!?ちょっと、真哉っ!!優奈ちゃんの気持ちも考えてあげなさいよっ!!この状況で試合に出ても、まともな試合なんて出来るわけないじゃない!!」


何も言えない私の代わりに抗議してくれる翔子先輩でしたが、

私の正面に回り込んだ北条先輩は厳しい視線を向けながら問いかけてきました。


「お前は『何の為』にここに来たんだ?誰かの為か?それとも天城総魔の為か?違うだろ?『自分自身の為』だ。自分に出来ることは何か?その答えを知る為に来たんじゃないのか?」


何の為に…?


私は何を目的として大会に参加したのでしょうか?


総魔さんの役に立ちたいからでしょうか?


それとも自分自身の力を知りたいからでしょうか?


分かりません。


自分でもわからないんです。


ですがこんな私でも誰かの役に立てるのなら、と。


そんなふうに考えていた気はします。


「いいか、優奈?泣くだけならいつでも出来る。でもな?立ち向かうことは今しか出来ねえんだ。泣いてる暇があるのなら立ち上がれ!そして自分自身の力で自分が『望むべき物』を勝ち取れ!!それが出来ねえのなら、それこそ『あいつ』の側にいる資格はねえ!!」


「「「………。」」」


力強く宣言する北条先輩の指摘に対して、

沙織先輩も翔子先輩も御堂先輩も何も言いませんでした。


それは多分、北条先輩の意見が正しいからです。


そして私も、北条先輩の言葉が正しいと思いました。


離れて行く総魔さんに何も出来なかったのは事実です。


ですが…。


今からでもまだ間に合うはずです。


総魔さんがどこに行ってしまったのかはわかりませんが、

ちゃんと向き合いさえすれば、今からでも総魔さんに辿り着けるはずなんです。


そう信じることで、立ち上がれる気がしました。


「私…」


今の私に出来ることは何もありません。


例え総魔さんを追い掛けても何も出来ないと思います。


ですが。


今よりももっと強くなって総魔さんの隣にいられるだけの力を持つことさえできれば、

総魔さんは帰ってきてくれるかもしれません。


総魔さんに守られる存在じゃなくて、

総魔さんを守れる存在になれれば…


きっと、総魔さんの側にいられると思うんです。


そう信じることで、まずは涙を拭いました。


そして試合場に向かうことにしたんです。


「優奈ちゃん !?」


「…大丈夫です」


私を心配してくれる翔子先輩に、精一杯の笑顔を向けました。


涙で真っ赤に染まる瞳で、

ぎこちない笑顔だったかもしれませんが、

今はこれが私に出来る精一杯の笑顔です。


「ちゃんと頑張れますから」


もう大丈夫です。


私は『情けない私自身と向き合う』為に、

笑顔を浮かべながら試合場に向かうことにしました。


そして試合場に上がってみると、

すでに対戦相手の金田淳子さんが待ってくれていました。


「ずいぶん遅かったわね。試合にでないのかと思ったわ」


「すみません。少し考え事をしていましたので…」


「ん?そうなの?まあ、人それぞれ色々あるでしょうね」


控えめに謝った私に、金田さんは微笑んでくれました。


どうやら怒ってはいないようですね。


遅くなってしまった私をあっさりと許してくれたんです。


「素直に謝ったから許してあげるわ。とりあえず自己紹介をしておくわね。私は敦子よ。金田淳子かねだあつこ。成績は4位だけど、あなたは何位なの?」


………。


成績を聞かれてしまいました。


今までなら自分に自信が持てなかったことであまり成績を言いたくなかったのですが、

これからはいつまでも落ち込んでいるわけにはいきません。


今のままの私では総魔さんを追いかける資格なんてないからです。


だからもう自分を卑下ひげするのは止めようと思います。


もう後悔なんてしたくありません。


もう、悲しい思いはしたくないんです。


だから私は私自身を乗り越えるために、

今の自分を受け入れたうえで自信を持って答えたいと思います。


「私は3位です。総魔さんと御堂先輩に次ぐ3番目です」


この番号こそが私の誇りです。


総魔さんと共に歩んできた思い出が、今の私の心の支えなんです。


「私はもう二度と負けません。例え相手が誰であっても、勝ち続けることが私の役目なんです」


そしていつか必ず!


必ず総魔さんに追い付いてみせます!


そのために今は…。


「この試合も勝ってみせます」


「ふ~ん。聞いてた話とは違うわね。」


「話…ですか?」


「ええ、そうよ」


何の話なのでしょうか?


金田さんが私に関してどう聞いているのか知りませんが、

昨日の試合で『吸収』の能力を持っているということは宣言していますので、

試合に関する話なら知っていてもおかしくはないと思います。


「もっと消極的な子だって聞いてたんだけど…。意外と強気な態度なのね」


消極的…ですか。


性格に関しては否定できませんね。


自分自身でも地味で目立たない性格だと思っているからです。


だからこそ私はそんな自分を変えたいと願っていました。


翔子先輩や理事長さんのように、

自分に自信を持って生きたいと願っていたんです。


だから。


「私はもう迷いません」


強くなって『たどり着きたい場所』があるから。


「私はもう二度と逃げません!」


「いい決意ね。」


力一杯宣言する私を見て、金田さんは楽しそうな表情を浮かべていました。


「何があったのかは知らないけれど、一生懸命に頑張れるのは良いことだと思うわよ。」


初対面の私を、金田さんは褒めてくれました。


「だったらお互いに精一杯頑張りましょう。…と言っても、さっきの彼みたいな力があなたにもあるのなら、私に勝ち目はないかもしれないけどね」


…っ!?


金田さんの言葉がきっかけとなって、一瞬だけ動揺してしまいました。


迷わないって決めたのに、

それでもまだ総魔さんのことを言われてしまうと心が動いてしまうんです。


ですが…。


まだ大丈夫です。


私はまだ頑張れます。


「私には総魔さんのような素敵な力はありません。ですが、いつか必ず追いついて見せます!」


総魔さんには届かないことを宣言してみたのですが、

それが良くなかったのでしょうか?


金田さんは小さく息を吐いていました。


「そう。あなたは違うのね」


………。


総魔さんとは違うと判断した金田さんの言葉は、

私には『精霊』が使えないという意味だと思います。


そしてそれは真実で、

私にはさっぱり理解出来ない魔術です。


ですがそれでも私は負けたくありません。


私が欲しいものは私自身の手でつかみとってみせます!


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