聞きたくなくて
《サイド:美袋翔子》
総魔の姿が見えなくなってしまったわ。
本当なら強引に引き止めたかったんだけどね。
だけど総魔を追い掛けることができなかったのよ。
『その言葉』を聞きたくなくて…
どうして良いか分からなくて…
追いかけることが出来なかったの。
もしも…もしもよ?
はっきりと総魔に『さよなら』なんて言われたら…
私はもう立ち直れない気がしたのよ。
そんな不安が心を支配したことで、
総魔を追い掛けることが出来なかったの。
突然、姿を消した総魔がどこに行ったのかなんてわからない。
私にはもう何が何だか分からなかったわ。
ねえ、総魔。
どういうことなの?
一体、ここで何が起きているの?
総魔は何処に行くの?
これじゃあ、まるで…。
まるで『最後の別れ』みたいじゃない!
私のすぐ側で泣き崩れる優奈ちゃんはきっと総魔のことを知ってるのよね?
だから泣いてるのよね?
ううん。
だから泣いてたのよね?
総魔を捜してる途中で優奈ちゃんが何を知ったのか私は知らない。
だけど優奈ちゃんは何かを聞いて真実を知ったんだと思う。
そしてその真実は私達には言えない内容だったんじゃないかな?
だから優奈ちゃんは何も言えずに苦しんでるのよね?
だから今も…
何も言えないまま何かを堪えてるのよね?
ねえ、優奈ちゃん。
総魔は何処に行ったの?
そんなふうに聞いてみたいけれど、
優奈ちゃんに答える余裕なんてなさそうよね。
どう見ても話ができる状況には思えないわ。
本当なら総魔が自分から話してくれる日を待とうって思ってたんだけど。
これじゃあ待つどころかもう会えない気がしてきたわ。
今すぐに追い掛けなきゃいけないわよね?
そう思った時にはすでに遅かったわ。
何処へ行ったのか分からないからよ。
会場内にいれば良いけれど、
外に出てしまっていたらもう捜しようがないわよね。
唯一、何かを知ってそうなのは優奈ちゃんだけど。
泣き続ける優奈ちゃんに問い詰めることなんて私には出来なかったわ。
静寂の中で響く優奈ちゃんの泣き声。
そんな私達の心境に関係なく、試合は進んでしまうのよ。




