楽しめた
《サイド:御堂龍馬》
「し、試合、終了!!!」
審判員の宣言によって彼の勝利が確定した。
学園2位の実力も大賢者の称号も精霊という力でさえもものともせずに、
彼はあっさりと成瀬君を打ち破ってみせたんだ。
それどころか新たなる力を手にしたことで、
彼は更なる高みへと上ってしまっていた。
これが彼の実力なのだろうか?
嫌でも考えてしまう。
僕と彼の距離感を…ね。
どれ程、成長しても。
どれ程、力を願っても。
彼には追い付けない。
そんな絶望にも似た気持ちが僕の心を支配してしまう。
試合場を下りて僕達の所へと帰ってくる彼の表情はいつもと何も変わらない。
だけど、なんとなくだけど。
何かが違う気がすたんだ。
雰囲気ともいうべき何か。
たぶんそれは僕だけではなくて、皆も感じているのかもしれない。
そしてその事実を象徴するかのように。
誰も…翔子や深海さんでさえも彼に話し掛けようとはしなかった。
一度始まればもうあとには引き返せないような、そんな空気が流れているんだ。
言いようのない不安。
重い空気の中で、彼が口を開いてしまう。
その瞬間に。
何故かは分からないけれど。
彼の言葉を聞いてはいけないような、
そんな不安と恐怖が僕の心に広がってしまったんだ。
「思った以上に楽しめた」
えっ?
今…なんて?
彼は楽しめたと言った。
それはまるで、もう終わってしまったかのような表現だった。
「これでもう俺の役目は果たせただろう」
な、何を…言ってるんだ?
役目って…。
果たせたって…どういうことなんだ?
「試合はまだ…」
終わってないんだ。
それなのに彼は…。
「お前達なら俺がいなくても大丈夫だ」
表情一つ変えずに…。
まるで最初からそうであったかのように…。
彼は僕達に背中を向けて歩きだしてしまったんだ。
「何処に行くんだ?」
「………。」
尋ねてみたけれど、彼は何も答えてくれなかった。
だけどその問いの代わりに。
一言だけ伝えてくれたんだ。
「お前達と出会えて良かった」
「総魔さん…っ!」
想いを残した彼の言葉を聞いて深海さんが泣き崩れた。
まるで『最後の別れ』のように悲しんでいる。
その姿を見て何も言えずに戸惑う沙織と翔子。
彼は僕達に振り返ることもないまま、
何も言わずに立ち去ってしまったんだ。




