魔女
《サイド:天城総魔》
さて…。
翔子達は北条が負けると思い込んでいるようだが、
どうなるかを見届けさせてもらおうか。
「試合始めっ!!!」
審判の合図を受けた北条と彩花は即座にルーンを発動させている。
光と同時に姿を現すルーン。
真哉の手には『ラングリッサー』があるが、
彩花の手には一本の短剣が現れただけだった。
だが、一目見ただけで危険な雰囲気が感じられる。
深紅に光る短剣はまるで血で染められているように赤く。
闇よりも深い禍々しい気配を放っているからだ。
まるで呪いでも込められているかのような凶器に思える。
「ふふっ」
邪気を纏う短剣を逆手に握り締める彩花は妖しげな微笑みを見せている。
その表情は魔性とでも言うべきか?
黒髪で細身の外見は沙織に通じるものがあるものの。
おそらく性格は真逆だろう。
常識という言葉を捨て去り。
狂気に堕ちた雰囲気が冬月彩花からは感じられる。
「今回もまた貴方なのね。以前と比べて少しは成長していれば良いけれど…」
挑発的な口調で話しかける彩花の言葉の一つ一つがまるで呪詛のように脳裏に焼き付く。
声は甘く響くが、言葉はトゲのように突き刺さる感じだ。
例えるなら薔薇のように、とでも言うべきか。
魔性の性格と交わって、黒薔薇と呼ぶべき狂気が冬月彩花という人間性を表しているように思える。
「はっ。成長か…。そう言うお前はどうなんだ?」
「私?私はそうね。色々な意味で成長したと思うわよ。色々な意味で…ね」
遠回しな表現で答えながらも、
彩花は全てを見透かすかのような瞳で北条を見つめ続けている。
その瞳の奥に感じられるものは何もない。
感情も、意志も、思考も、何一つ感じられない。
あるのは純粋な無だ。
そこには善も悪もない。
そして喜びも悲しみもない。
ただまっすぐに北条を見つめて、
獲物を刈り取る作業を遂行するだけの冷徹さだけを宿している。
「相変わらず不気味な女だな」
「あら?そうかしら?自分では普通だと思ってるのよ」
北条の言葉を笑顔で聞き流す彩花の表情は『妖艶』に満ちている。
だがそれは『色気』とは異なる独特の雰囲気だ。
彩花には底知れない怪しさと得体の知れない威圧感がある。
その言動はまさしく『魔女』そのものといえるだろう。
カリーナ女学園において1位の冬月彩花。
圧倒的な威圧感と膨大な魔力を感じさせる彩花は、
今の翔子と同等か、あるいはそれ以上の『存在感』を放っているようにさえ思えてしまう。
「あなたは私に勝てるかしら?」
北条に向けて微笑む彩花の表情には余裕しか感じられない。
だがそれでも、北条は一歩も退かなかった。
「勝つに決まってるだろ!!」
勝利を目指す北条が全力で駆け出す。
「俺はもう誰にも負けるつもりはねえっ!!」
必勝の気合を込めて、
北条は戦いへと挑んでいった。




