言いたくても言えない
結局、置き去りにされた私達は互いに顔を見合わせてから首をかしげることになったわ。
う~ん。
一体、総魔はどこで何をしてるの?
沸き上がる疑問が止まらないわね。
この大会が始まってからずっと総魔の様子がおかしいからよ。
突然、姿を消す総魔がどこで何をしているのかを知りたくて知りたくて、仕方がないわ。
だけど、無理やり追うわけには行かないのよね…。
もう尾行はしないって決めたわけだし、
総魔の迷惑になるような行動は控えたいからよ。
そう思うから総魔を追うことが出来ないんだけど…。
もしかしたら優奈ちゃんは何か知ってるのかな?
午前中に優奈ちゃんが泣いてたことを思い出したことで、
優奈ちゃんに問い掛けることにしてみたわ。
「ねえ、優奈ちゃん」
「あ、はい。なんでしょうか?」
呼び掛ける私に振り返る優奈ちゃんは不思議そうに私を見てる。
いつもと変わらないように見える優奈ちゃんだけど、
何故か私には泣いているように見えるのよね~。
「ねえ、優奈ちゃんは総魔のことを何か知ってるの?」
「………。」
何も答えずに俯く優奈ちゃんの表情を見た龍馬と沙織が
心配そうな表情で優奈ちゃんを見つめてる。
「もしかして何か知ってるのかい?」
「………。」
問い掛けた龍馬に対して優奈ちゃんは泣き出しそうな表情を向けただけで、
何も言わずに黙り込んでしまったわ。
ん~。
何か言えない事情でもあるのかな?
例えば総魔に口止めされてるとか?
でも、その場合は何も知らないとか言えばいいだけよね?
黙り込む方が不自然よね?
…ということは、口止めされてるんじゃなくて、
話したくても言えない事情があるって考えるべきよね?
それがなんなのかが分からないんだけど。
何らかの理由があって話せないっていう感じだと思うわ。
う~ん。
こうなると優奈ちゃんに何があったのかが分からないと考えようがないわよね?
だけど聞いても答えられないのよね?
だけど優奈ちゃんの瞳は確実に何かを訴えてる気がするわ。
言いたいけど言えないっていう感じなのかな?
話したいけど口に出すことが出来ないことで思い悩んでるって感じの表情なのよ。
どういうことか分からないけど、
私達にも言えないような事情があるのかもしれないわ。
そんな優奈ちゃんの気持ちを察したのか、
沙織が優奈ちゃんの小さな体を抱きしめてた。
「大丈夫。無理をしなくていいのよ」
優しく優奈ちゃんを抱きしめる沙織は何も聞かないって囁いてた。
そのせいかな?
優奈ちゃんは罪悪感を堪えなかったようで、
沙織に抱きしめられながら涙を流してた。
「…ごめんなさい…っ!ごめん…なさいっ…!でもっ…でも…私…っ!」
涙を流しながら何度も何度も謝り続ける優奈ちゃんが何を隠しているのかは分からないわ。
だけど言いたくても言えないっていう心の叫びははっきりと伝わってくる。
口止めされたわけじゃないのに言えないってどういうことなの?
話の内容そのものに何か問題でもあるのかな?
だとするともう何がどうなってるのか想像もできないんだけど、
説明できないほどの何かを知ってるのは間違いないようね。
私としてはそれが何なのか聞きたいんだけど、
今の優奈ちゃんに話を聞くのはどう考えても無理よ。
たぶん、沙織も同じように考えてるんじゃないかな?
だからかどうかは分からないけど、
沙織は優奈ちゃんの頭を撫でながら優しく囁いてた。
「いいのよ、優奈ちゃん。無理をしてまで話さなくても良いわ。何があったのかは知らないけど、誰も優奈ちゃんを責めたりしないから。だから、泣かないでね」
「…ごめん、なさい…っ」
謝り続ける優奈ちゃんの表情は話を聞いて欲しいって顔をしてる。
本当は全て話してしまいたいっていう雰囲気なのよ。
それなのに、言えないみたい。
う~ん。
ますます気になるわね。
優奈ちゃんは総魔の何を知ってるのかな?
それは私達にも言えない程のことなの?
そんな疑問を感じるけれど。
とてもそれを優奈ちゃんに聞ける雰囲気じゃなかったわ。




