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THE WORLD  作者: SEASONS
4月14日
606/4820

内緒話?

「さてさて、無事に2回戦が終わったわね」


歩み寄ってくる理事長を龍馬や沙織が丁寧に出迎える中で、

理事長は私達のすぐ側まで近づいてから足を止めたわ。


遠からず近からず、絶妙な距離だと思う。


「ひとまずみんな、ご苦労様。これで3回戦進出が決定よ。前半で苦戦したからひやひやしたけれど、無事に勝ち残れて良かったわ。特に天城君の延長戦はなかなか見所があったと思うわよ。あのフェイ君を相手に圧勝できる生徒なんてそうそういないでしょうしね」


総魔を褒める理事長は本当に嬉しそうな表情で笑顔を見せてくれてるわ。


まあ、前半がボロボロだったから、

後半の巻き返しが満足できる内容だったんでしょうね。


もしも沙織が引き分けじゃなくて敗北してたら

真哉が負けた時点でジェノスの敗退が確定してたわけだし。


理事長が不安にかられた気持ちも理解できなくはないわ。


だけど、結果的に言えば私は試合に参加してないから特に悔しくも嬉しくもないかな。


一応、優勝を目指してるわけだしね。


勝ち残れるのは当然って思ってるくらいよ。


だから理事長ほど上機嫌ってわけじゃないわ。


むしろ治療やら応援やらで精神的に疲れてるかも。


「あらあら、みんな目が死んでるわよ。今日はもう疲れたかしら?」


理事長の問い掛けに、私と沙織が真っ先に頷いてた。


「いろんな意味で疲れたわ」


優奈ちゃんが倒れたことで、治療をもめて総魔に怒鳴ったり。


沙織が倒れたことで、何もできずに慌てふためいたり。


真哉が倒れたことで、抵抗できない内にぺしぺし叩いてみたり。


龍馬の圧勝を見て、密かに焦りを感じていたり。


総魔の実力を見て、驚きを通り越して呆れたり。


とにかく色々あって疲れたのよ。


そんな私に続いて、沙織も深々とため息を吐いていたわ。


「明日の為に少し休憩したほうが良いかもしれません」


「まあ、そうでしょうね」


ちょっぴり疲れた雰囲気を醸し出す私達を見て、

理事長は苦笑気味に笑顔を浮かべてた。


「とりあえず今日はもう試合はないから、適当にのんびりと過ごしてくれれば良いわ。すでに夕食の手配は済ませてあるから午後7時頃に部屋に集合してもらえるかしら?」


「はあ!?今は何時だ!?」


夕食の時間を指定した理事長の言葉を聞いたことで、

当然の様に真っ先に真哉が反応してるわね。


大慌てで時計を探す真哉だけど、そんなに焦る必要ってあるの?


朝も、昼も、お腹いっぱい食べてたはずよね?


…って言うか。


昼食を終えてからまだ2、3時間しか時間が過ぎてないはずよね?


なのに、もう、お腹がすいたの?


さすがにそれはおかしくない?


一度病院に行くべきじゃない?


ううん。


違うわね。


今すぐ病院に行きなさい。


そしてわりと本気で胃袋の状態を確かめてきなさい。


そうすればきっと改善されるわ。


良い意味で食欲が低下するはずよ。


…って言うか、低下させてきなさい。


なんならいっそのこと胃を除去するくらいでも良いわよ?


それくらいしておけばきっと人並みの食欲になるはずだしね。


なんて思いながら真哉を眺めていると。


「まだ4時にもなってないわよ」


真哉の行動を微笑ましく見ていた理事長が時間を教えてくれたわ。


「ちっ!ならまだ3時間もあるじゃねえかっ!」


ホントに文句だらけね~。


子供じゃないんだから大人しく待ちなさいっての。


「3時間くらいすぐでしょ?」


「すぐなわけねえだろ。試合が終わっちまったから他にはもうやることがねえんだぞ?町を観光するにしても中途半端な時間だし、グランパレスの内部をうろついたくらいだと3時間もすぎねえじゃねえか」


ああ、まあ、そうね。


ここは学園じゃないし。


特風の仕事もなければ暇つぶしの手段さえないわ。


って言うか、そもそもジェノスじゃないから知り合いもいないし。


他の学園の生徒と親睦を深めるっていうのも無理がある話よね?


だから3時間が長いか短いかは別として、

何もすることがない3時間は確かにしんどいと思うわ。


「早く飯にしてくれー」


大声で叫ぶ真哉を理事長はあっさりと無視してる。


いつものことだから気にしてないみたい。


「ああ、そうそう、天城君」


話を終えた理事長は何故か総魔に話し掛けていたわ。


呼び掛ける理事長に視線を向ける総魔だけど、

特に何も言わなかったわね。


むしろ口を開ける仕草さえなかったわ。


相変わらず会話らしい会話をしないのよ。


そんな総魔だけど、

理事長は気にした様子もないまま歩み寄ってから総魔の耳元でそっと耳打ちしてた。


「………。」


何なの?


私達には言えない内緒話なの?


って言うか、総魔の耳元で囁くとかちょっと羨ましいんですけど~。


話の内容よりも理事長の行動の方が気になってしまったわ。


だけど間に割って入るわけにはいかないし。


無理に話を聞き出すわけにもいかないわよね?


とりあえず何もわからないまま様子を見ていると、

理事長は何かを告げてから総魔から離れたわ。


う~ん。


何の話か気になるじゃない。


だけどその内容を尋ねる前に、

理事長は全員に対して話し掛けてきたのよ。


「それじゃあ私は仕事があるからもう行くけど、皆は明日の試合に向けてしっかりと体を休めるように!以上。それじゃあ、解散!」


言うだけ言って立ち去る理事長も相変わらず自由だと思うわ。


もっと色々と話し合うべきことがあるんじゃない?


…って、思うけど。


何を言っても無駄なのは今までの経験から十分に理解してるわ。


だから理事長には何も聞かないし、聞こうとも思わない。


理事長には、ね。


私の隣には総魔がいるのよ。


聞きたいことがあるなら総魔から直接聞けばいいの。


そう思って総魔に振り向こうとしたんだけど、

その前に理事長を追って歩き出す総魔が私達から離れてしまったわ。


「え?ちょ、どこに行くの?」


慌てて尋ねる私に、総魔は歩きながら答える。


「特に予定はないようだからな。少し出掛けて来るだけだ」


「じゃ、じゃあ!私も…」


「いや。一人で良い」


一緒に行くと言い切る前に総魔は私の言葉を遮ってしまったわ。


あうぅ~。


私の同行を拒否した総魔は、そのままどこかに行ってしまったのよ。


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