微妙な緊張感
寮の外に出た。
ルーンの実験に成功したことで、
検定会場に向かおうと考えたからだ。
次に向かうべき会場は校舎の北西に位置する第2の検定試験会場になる。
ただ、今までの会場とは違い。
第2検定試験会場は2000人の生徒ではなく、
約1900名の生徒が所属しているらしい。
生徒番号100番から1999番までの生徒達が集まっているからだ。
すでに昨日も試合を行っているので今更敗北することはないとは思うものの。
もう少し格上の生徒と戦うことでルーンの能力を確認しようと考えている。
この会場を乗り越えてしまえば残りは最後の検定会場だけしかないからな。
実際にどの程度の効果が見込めるのかを事前に確認しておく必要はあるだろう。
最終目標である第1検定会場には1番から99番までの生徒達しかいないことを考えれば、
あと何回試合ができるかわからない状況だ。
いざという時に使えないようでは意味がないからな。
出来るときに練習しておくべきだろう。
そんなふうに考えながら歩みを進めていると、
正面から一人の少女が近づいてきた。
「おはよ~♪」
寮を出た入口付近で待ち構えていたのは翔子だ。
「調子はどう?」
相変わらず元気一杯の大きな声で話しかけてくる翔子だが、
俺としてはまだ必要以上に仲良くつもりはない。
「問題ない」
小さく返事をしたあとで何事もなかったかのように歩きだす。
「ちょ…っと!せっかく待っててあげたんだから、置いていかないでよ~!」
早々に歩き出した俺を追い掛けるために小走りで駆け寄ってくる翔子を特に気にすることもないまま視線も向けずに歩き続ける。
ここまではいつもと同じ光景だ。
何も変わらない、いつも通りの朝のはずだ。
それなのに。
何故かいつもと違う雰囲気を感じてしまう。
この雰囲気は何だ?
微妙な緊張感とでも言うべきだろうか?
いつもよりもほんの少しだけだが翔子の雰囲気が違う気がする。
普段なら遠慮のかけらもないような翔子が少し聞きにくそうな態度を示しているような気がしたからだ。
「気になるのか?」
おそらくそうだろうと思って問いかけてみると、
驚きを隠しきれなかった翔子は笑顔をひきつらせていた。
「あ、あはは…。やっぱりわかる?」
「わざとそうしているのかと思うほどにはな」
「…うっ。そ、そうは見えないように気を付けてたつもりだったんだけどね~」
乾いた笑い声をあげる翔子が、
不意に前方に歩み出てから振り返って立ち止まる。
そのせいで自然と俺の足も止まった。
「それじゃあ、正直に聞いちゃうけど。ルーンはもう完成したのよね?」
すでに確信しているような聞き方だ。
だがその事実を認めたくないと思う気持ちもあるのだろう。
緊張した面持ちで問い掛けて来る翔子の表情には期待と不安の両方が感じ取れる。
「どういう答えを期待している?」
「それは、まあ、もちろん…。」
言いにくそうな雰囲気で言葉を濁しているが、
求めている答えは一つだろう。
心では否定を求めながらも、
頭ではすでに肯定を認めているといったところだ。
翔子の表情から翔子の考えを読み取って微かに微笑む。
「期待に応えられないのは残念だが、完成はしていない」
現状を正直に伝えたのだが、
だからこそ翔子は理解したのだろう。
こちらの意図を読み取って、
真面目な表情を浮かべている。
「完成はしてない、って事は…ルーン自体は出来たわけね」
「ああ、そういう事になるな」
即座に応えたことで翔子は確信を得たようだ。
そしてあとは実際に使って微調整するだけなのだと気づいただろう。
今までずっと見ていたからな。
だからこそ。
翔子には分かってしまうのかもしれない。
次の試合でルーンが完成する可能性に気づいたようだ。




