米倉宗一郎
《サイド:天城総魔》
試合順が確定したことで、
ようやく大会の説明が終わったようだな。
係員が話を締めくくっていく。
「…ということで、私からの説明を終わらせていただきます。そして開会式の最後に大会の実行委員長から一言お願いしたいと思います」
壇上を下りる係員の代わりに、一人の男が壇上へと上がってきた。
その瞬間に…俺は気づいた。
いや、その姿を見て思い出したと言うべきか。
まさかこんなところで再会するとは思ってもみなかったが…。
見覚えのある男の雰囲気は以前と何も変わっていないように思える。
決して忘れることのない顔は少し老けたように見えるものの、
それほど大きな変化は見られない。
少なくとも、感じ取れる魔力の波動は記憶と一致しているように思える。
だとすれば間違いではないだろう。
ずっと会いたいと願っていたその男を、
俺はようやく見つけることができたようだ。
「えー、大会の実行委員長をやらせてもらっている『米倉宗一郎』だ」
今まで名前すら知らなかった男だが、
壇上に立って堂々と挨拶を始めたことでようやく名前を知ることができた。
だが、米倉か…。
その名前を聞いて、今更になって気づいた。
あの男は米倉美由紀の父親だったようだ。
本当に今更という感じがしてしまうが。
名前を知らなかったとは言え、
かつてこの国の代表を務めていた男の顔を知らなかったことに対して
自分自身を笑いたくなってしまう気分だった。
とは言え。
今はそんなことはどうでもいい。
捜し求めていた男を見つけだしたのだ。
その事実だけが重要だと言える。
あの『狂った世界』でただ一人だけ信じることの出来る人間。
俺の過去を抹消したあの事件において、
ただ一人手を差し延べてくれた男がここにいた。
全てを失ったあの日から十数年間。
ずっと捜し求めていた人物の『一人』と、ようやく巡り会うことができたのだ。




