クジ引き
《サイド:御堂龍馬》
ふう。
そろそろ終わりかな?
大勢の観客が集まり、開会式も終盤に差し掛かる頃に。
「…以上。みんなの頑張りを期待しているわね」
理事長が話を締めくくって退場していった。
そうして共和国を代表する理事長の挨拶が終わったことで、
入れ替わりに大会の係員が壇上に立った。
「それではこれより大会の説明を始めさせていただきますが、まずはただ今より抽選を行い、試合の『順番』を決めたいと思います」
係員が宣言した直後に、大きな掲示板が運び込まれてきた。
だけど用意された掲示板に貼られたトーナメント表は無記名だ。
線だけが引かれた表の最下部には1から32の番号が書かれているだけの空欄がある。
これからここに各学園の名前が書かれていくんだ。
「これより各学園の代表者の方にクジを引いてもらい。『対応する番号』に学園名を書かせていただきます」
説明を続けながら、係員がクジを用意していく。
「それでは順番にお願いします」
係員の合図によって各学園の代表者が歩みを進めて次々とクジを引いていくんだ。
順番は特に決まっていない。
早いモノ勝ちだね。
その様子を眺めながら、僕は彼に問い掛けてみることにした。
今回、ジェノスの代表は彼だからね。
僕が勝手に判断するつもりはないよ。
「どうする?きみが行くかい?」
聞いてみたけれど、彼は小さく首を振っちた。
「興味ない」
だろうね。
そう言うと思っていたよ。
それでも一応聞いてみたんだけど、
彼は予想通り一言だけ答えただけで会話を打ち切ってしまったんだ。
その結果として。
「いつも通り、龍馬が行けばいいじゃない」
翔子に言われてしまったことで、
僕が代表としてクジを引くことになった。
すでに並んでいる学園の最後尾に並んで順番を待つ。
…と言っても、ホンの数分で順番が来てしまう。
ただクジを引くだけだから混み合うことはないからね。
「ジェノス魔導学園ですね。今回もご活躍を期待していますよ」
「ありがとうございます」
箱を差し出す係員に一礼してから、
僕は一枚の紙を掴みとって記されている番号を確認してみた。
紙には『5番』と書かれている。
その紙を係員に手渡す。
「5番ですね」
番号を確認した係員はトーナメント表にジェノスと書き記した。
それを確認してから、僕はみんなのところへ戻った。
「5番だったよ」
「みてえだな。今回は前半組か」
「そうだね」
32校の学園で行われる試合は全部で16試合ある。
そして試合会場はこの決勝戦の試合場を除いて8つあるから、
1回戦は前半8組と後半8組に分かれて行われることになるんだ。
僕達の番号は5番で3組目だからね。
前半8組に含まれることになる。
「食後の運動には丁度良いか」
笑顔を浮かべる真哉はすでにやる気が十分なようだ。
「各学園の代表者の皆様、ご協力ありがとうございます!これで全学園の試合順が確定しました」
宣言する係員の背後にあるトーナメント表には、32校全ての学園の名前が記されている。
僕達の1回戦の対戦相手は『エスティア魔術学園』だった。
エスティアはジェノスとは異なる方針があって、
ルーンや魔法に頼ることなく徹底的に魔術だけを追求することに特化した学園だ。
扱える魔術の総数はジェノスの数倍と言われている。
その方針による長年の研究の成果によって、
僕達が使うような攻撃的な魔術よりも補助的な魔術を数多く扱う学園でもある。
だから彼や沙織のように魔術全般を使いこなして、
あらゆる状況に対応出来る生徒を数多く抱えている学園でもあるんだ。
それが『エスティア魔術学園』の特徴になる。
「さっそく前回の借りを返せそうだな」
小さな声で呟く真哉の気持ちは僕にも分かるよ。
前回の大会では準決勝で彼等と戦ったんだけど、
対戦成績は2勝2敗1分けで延長戦まで続いていたんだ。
真哉と由香里が敗北して翔子が引き分けていた。
僕と沙織が勝ったことで試合は延長戦になったんだけど、
再び試合場に立った僕が勝利したことでジェノスは決勝に進出した。
それくらい拮抗した実力を持つエスティア魔術学園は決して油断出来る相手ではないと思う。
「今回は負けねえぜ」
気合を入れて微笑む真哉だけど、翔子はお気楽に笑顔を見せていた。
「まあ、今回は楽勝じゃない?だって単純に考えても沙織と龍馬、それに総魔がいるんだから負けるはずがないわ」
うーん。
それはどうかな?
そんな単純な話なら良いんだけど、
向こうも1ヶ月間の期間の間に成長している可能性は十分あるはずだからね。
実際に試合をしてみないことには分からないし、
油断はしないほうが良いと思うよ。
「油断は禁物。最後まで気を抜かないほうが良い」
念の為にと思って忠告してみると、
翔子は真剣な表情で宣言していた。
「必ず勝つわ!それが…ううん。最低限その程度のことが出来なければ、私達は越えられないのよ」
ああ、確かにね。
彼に視線を向ける翔子の気持ちはすぐに理解できた。
彼に挑戦して乗り越える為には、この大会で敗北することは許されないと思う。
彼に勝つ為には最低でも『全戦全勝』
可能なら『全戦圧勝』
そのくらいの気持ちでいないと彼に挑む権利さえないと考えるべきなのかもしれないからね。
「私達に敗北は有り得ない。そうでしょ、龍馬?」
翔子の言葉は真理だ。
だから僕は力強く頷いた。
「ああ、そうだね、翔子。僕達は勝ち続ける必要がある。彼に追いつく為に。そして彼を追い越す為に!」
真剣な表情で翔子と向き合ったあとで、
僕は気持ちを切り替えて係員に視線を戻す。
迷う必要も考える必要もないんだ。
必要なのは勝ち続けること。
ただそれだけだからだ。




