優奈のお願い
《サイド:深海優奈》
「まあまあ、難しい話はもういいんじゃない?」
総魔さんの説明が終わって、翔子先輩が立ち上がりました。
「とりあえず、聞きたいことはこれで全部よね?」
沙織先輩…
御堂先輩…
北条先輩…
そして私に順番に視線向けた翔子先輩は、
質問が終わったことを確認してから、みんなに話し掛けました。
「それじゃあ、これで会議は終了ね。あとはまあ適当に時間を潰して明日に備えて体を休めるっていう感じでいいわよね?」
翔子先輩の意見に私達は揃って頷きました。
「お~け~。ひとまずこれで解散ね」
翔子先輩の合図によって私達は一晩自由行動になりました。
時刻は午後8時ですね。
ちゃんと体を休めるなら、遅くても11時までには寝ておきたいと思うのですが、
今は少し思うことがあって眠れそうな気がしません。
私の能力の欠点を考えるとどうしても悩んでしまって、
なかなか寝付けそうになかったんです。
私はどうすればいいのでしょうか?
一人で思い悩んでしまったことで、
解散が宣言されてもすぐに動き出す気にはなれませんでした。
ただ静かに皆さんの行動に視線を向けていたのですが、
真っ先に動き出したのは北条先輩でした。
「俺はもう寝る。どうせやることもねえしな」
北条先輩は個室に向かって行きました。
寝るにはまだ早いと思うのですが、
することがないのは事実ですので、
それも一つの選択肢だとは思います。
とは言え、私はまだまだ眠れそうにありませんけど。
沙織先輩と御堂先輩は北条先輩の後ろ姿に笑顔を向けていました。
「おやすみなさい」
沙織先輩は笑顔で見送り…
「おやすみ、真哉」
御堂先輩は小さく手を振って声をかけていました。
「ああ、おやすみ」
振り返ることなく手を振り返してから扉に手をかける北条先輩に…
「寝過ぎて寝坊しないように気をつけなさいよ~」
最後に翔子先輩が話し掛けていました。
ですが翔子先輩の言葉を聞いた北条先輩は笑っているようです。
「ははっ。翔子にだけは言われたくねえな」
笑いながら個室に入った北条先輩は、
『だけ』という部分を強調したように聞こえたのですが、気のせいでしょうか?
「翔子先輩は寝坊したことがあるんですか?」
扉が閉まるのを確認してから、翔子先輩に尋ねてみました。
「え?あ、あ~、うん…。」
翔子先輩は気まずそうな表情を浮かべていますね。
その表情を見ていた沙織先輩が、
翔子先輩の代わりに教えてくれました。
「北条君もそうだけど、翔子も一度寝たらなかなか起きないのよ」
「あ、あははははは…」
翔子先輩は渇いた笑い声で、気まずそうに微笑んでいます。
「…ま、まあ、そんなことはどうでもいいじゃない」
照れくさかったのか、
翔子先輩は強引に話を打ち切りました。
そんな翔子先輩に微笑みながら、
今度は御堂先輩が立ち上がりました。
「少し散歩でもしてくるよ。どこかで知り合いに出会えるかもしれないしね」
出口へと向かう御堂先輩を、
沙織先輩と翔子先輩は手を振りながら見送っています。
「気をつけてね、龍馬」
「遅くなりすぎないようにね~」
「ああ、大丈夫だよ」
沙織先輩と翔子先輩に挨拶をしてから部屋を出ていく御堂先輩。
次に席を立ったのは沙織先輩でした。
「片付けて来るわね」
沙織先輩がテーブルの上の湯呑みやお皿を集めます。
「手伝うわよ」
「ありがとう」
沙織先輩と協力してテーブルを片付ける翔子先輩。
私も手伝うべきなのかもしれませんが、
私に出来ることはすでになさそうでした。
あっという間に片付くテーブル。
沙織先輩と翔子先輩が食器を片付ける音を聞きながら、
私は思いきって総魔さんに話し掛けることにしました。
「あの…」
「どうした?」
どうと言うか…。
総魔さんに『一つだけ』お願いしようと思ったんです。
「あの、お時間があったらで良いんですけど。少し吸収のことを教えていただけませんか?」
断れれたらどうしようと思って控え目に尋ねてみたのですが、
総魔さんは特に表情を変えることなく頷いてくれました。
「何が知りたい?」
「え~っと」
何が、と聞かれても自分でも何を聞けばいいのかよく分かりません。
だからでしょうか?
戸惑う私を見て、総魔さんの方から尋ねてくれました。
「吸収の能力によって出来ること。それを知りたいというのなら俺の分かる範囲で教えることは出来る。だが、さっきも言ったが俺の吸収は優奈の特性の模倣でしかない。俺にはない特性を魔術的に再現しているだけにすぎないからな。それでもいいなら説明してもいいが、俺の話を聞きたいと思うか?」
「はい。少し違っていても総魔さんは私よりも吸収という力を詳しく知っていると思います。だから教えていただけませんか?」
頭を下げてお願いしました。
私が相談できるのはやっぱり総魔さんしかいないと思うからです。
「お願いします」
「ああ、いいだろう。」
片付けを終えて戻ってきた沙織先輩と翔子先輩の視線を受けながら、
総魔さんは静かに頷いてくれました。
「実際に実験した方が早いからな。どこか広い場所へ移動しよう」
総魔さんは出口に向かって歩きだします。
歩きだした総魔さんを見て、私は慌てて追い掛けました。
「あ、あの、行ってきます」
すれ違う沙織先輩と翔子先輩に挨拶をしてから、
総魔さんと二人で出掛けることになったんです




