優奈の欠点
《サイド:深海優奈》
あれから40分後。
色々と気になってあまり食事を楽しめる心境ではなかったのですが、
ひとまず食事を終えた私達は食器類を全て集めてから部屋の外の棚へと片付けました。
「ここに出しておけば、あとで係の人が回収してくれるのよ」
色々と教えてくれる沙織先輩と二人で協力して全ての食器を片付けてから部屋に戻ってみると、
すでに御堂先輩と翔子先輩がテーブルを綺麗に掃除してくれたようです。
今は最後の仕上げとしてテーブルを拭いているところでした。
北条先輩は…特に何もせずにソファーに腰を下ろして休憩しているようですね。
「食べるだけ食べて、あとは休憩って良い身分よね~」
冷たい視線を向ける翔子先輩ですが、
北条先輩は気にした様子も見せずに笑顔を返していました。
「在庫の処分っていう大役を果たしてやったんだ。それで十分だろ?」
確かに。
完食したのはすごいと思います。
私達が食べきれずに残してしまった料理を全て一人で食べ尽くすという食欲には驚きました。
テーブル一杯だった料理が一つ残らず完食されたんです。
私ならたぶん…。
全部を食べきるのに2週間くらいかかるのではないでしょうか?
きっと翔子先輩も同じだと思います。
だから、だと思うんですが。
翔子先輩は呆れた表情でため息を吐いていました。
「まあ、いつものことだから良いんだけどね」
ソファーに向かった翔子先輩は、
北条先輩から一番遠い場所を選んだようです。
「優奈ちゃんもおいで~♪」
「あ、はい」
翔子先輩に歩み寄って、翔子先輩の隣に座りました。
続いて御堂先輩が北条先輩の隣のソファーを選んで腰を下ろしています。
「総魔もこっちにきなさいよ~」
翔子先輩に呼ばれた総魔さんは、
私達の隣にあるソファーに座りました。
片付けの間、総魔さんがどこにいたのか私は知らなかったのですが、
どうやらお湯を沸かしてくれていたようです。
最後に歩み寄ってきた沙織先輩が、
お茶の準備を整えてからテーブルの上に並べてくれました。
小さめのテーブルを囲むように並ぶ4つのソファー。
その中心にあるテーブルに6人分のお茶が並びます。
すぐ傍にお茶菓子も添えられて、
準備を整えた沙織先輩は御堂先輩の隣に腰を下ろしました。
これで全員が揃ったことになりますね。
時計周りに北条先輩。
御堂先輩と沙織先輩。
私と翔子先輩。
そして総魔さんの順番です。
食後の一時。
真っ先に話を切り出したのは翔子先輩でした。
「それで、さっきの続きなんだけど。結局どういうことなの?」
続きというのはもちろん私の欠点に関するお話です。
どうして火傷が治ったのか?
どうして攻撃魔術が通じたのか?
それらの疑問を翔子先輩が尋ねてくれました。
「もうさっきから気になり続けてしょうがないんだけど?」
「そうだな。そろそろ話してもいいだろう」
食事が終わったことで、
総魔さんは私に視線を向けてから、ゆっくり説明してくれました。
「本来なら魔力として吸収するはずの魔術が優奈に対して効果を発揮した。その事実と先程の実験結果を踏まえて考慮すれば自然と答えが出てくる」
総魔さんは私の左手に視線を向けています。
「優奈は『間接的』な魔術は吸収出来るが『直接的』な魔術は吸収出来ないということだ」
直接的な魔術は吸収できない?
その言葉の意味は、なんとなく理解出来ます。
離れた場所からの魔術は、今まで一度も影響を受けたことがないからです。
ですが。
今回のように直接手を触れての魔術は吸収出来ませんでした。
思い返せば以前、御堂先輩に唇の傷を治療してもらった時もハンカチ越しではありましたが、
直接私に発動した回復魔術を吸収することはありませんでした。
そして先程の出来事です。
炎の魔術が私に火傷を作ったことを考えると、
回復魔術だけに限らずに、
どんな魔術であっても直接発動する魔術は吸収出来ないということになります。
「何もかも吸収できるわけではないんですね…。」
「ああ、そうだな。今の優奈では難しいだろうな」
「今の私…ですか?」
「現時点では推測でしかないが、おそらくは時間的な問題だと思っている」
「時間ってどういうこと?」
首をかしげる翔子先輩に視線を動かしてから、
総魔さんは話を進めました。
「俺の操作に関しても同じことが言えるが、魔力の解析から変換までに多少の時間差が生まれてしまう。俺の場合はおよそ2秒だが、優奈の場合はコンマ何秒か…。おそらくはその程度だろう。だがその時間差が直接発動する魔術に対応仕切れていない、と考えるのが現状では最も無難な答えだと思う」
コンマ何秒かの時間差。
それが私の欠点だと総魔さんは言いました。
「だから今の私では吸収できないということですか?」
「ああ、そうだ。距離を問わず、あらゆる魔力を吸収出来なくてはいずれ敗北する日が来るだろう。少なくとも今の優奈ではルーンに対しての吸収は難しいだろうからな」
直接的な魔術や物理的な攻撃力も併せ持つルーン。
それらに今の私の能力では間に合わないということです。
吸収が間に合うかどうかが私の『欠点』と『課題』になりました。
「どうすれば良いのでしょうか?」
「まずは経験を詰むしかないだろう。実際にどの程度の時間差が発生するのかまでは分からないが、戦いの中で自分自身で精度を高めて極めていくしか方法はない」
自分自身で、ですか。
それは私にとって一番難しい言葉です。
今でもまだ吸収という能力を把握出来ていないのに、
『その精度を上げていく』というのはとても難しい話です。
それでも能力を理解して使いこなせるようになることが
私がしなければいけないことだと理解できました。
みんなの役に立てるように。
そして足手まといにならないように。
私は私自身の力と向き合わなければいけないのかもしれません。




