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THE WORLD  作者: SEASONS
エピローグ
4806/4820

行けない理由

《サイド:シェリル・カウアー》

…う~ん。


…ここからだと魔術が届いたかどうか微妙な距離なのよね~。



イーファの王城で京一の戴冠式が行われている頃。


何故か私はイーファ領北部の山岳地帯に身を潜めていたわ。



…はぁ。



私としては素直に京一の式典に参加するつもりだったんだけどね。


なぜかイーファに行かないと言い張る亮平を残していけなかったせいで、

首都の北部に広がる山岳地帯の最南端から魔術による祝福を試みるしかなかったのよ。



…まあ、気持ちだけ伝わればそれでいいかしら?



紗枝の時もそうだったけどね。


直接向き合って祝福の言葉を伝えるっていうのは自分にあっていない気がするから、

これはこれでいいと思うことにしたわ。



…ひとまず京一に関してはこれでいいとして。



現時点で考えるべきは亮平の行動に関してよね。



「それで?どうして京一に会いに行かなかったわけ?まさかまた私の知らない間に喧嘩でもしてるの?」


「あ、い、いや…。」



グランパレスの会場でそうだったように、

また二人が喧嘩しているのかと考えたんだけど。


どうやら亮平の抱える問題はその程度の話ではないようね。



「本当なら澤木君にはちゃんと会いたいと思うんだが、それ以外の部分で問題があってな。」



…はぁ?



首都に行けない理由があるってこと?



「今はあの町に行けないんだ。」



…何よそれ?



「だから、どうしてよ?」



亮平が抱える問題の内容を知らないことで冷たい視線を向けてみると。



「…あの町には絵里香がいるからな。」



亮平は気まずそうな表情で話し始めたわ。



…絵里香?



「何よ亮平ってば、今度は絵里香と喧嘩してるの?」


「い、いや…。喧嘩どころの話じゃないだろうな…。」



…はあ?



「どういう意味よ?あんた一体、絵里香に何をしたのよ?」


「…聞きたいか?」



…は?


…何よそれ?



「言いたくないような内容なの?」


「あ、いや、そういう訳じゃないんだが…。今ならシェリルに全てを話せると思うだけだ。」



…ん?


…今なら?



よく分からない言い方だけど。



「ちゃんと話す気があるのなら聞いてあげるから言ってみなさいよ。」


「あ、ああ、そうだな…。澤木君の想いを無駄にするわけにもいかないからな。ちゃんとシェリルと向き合おうと思ってる。」



…はぁ?


…どういうこと?



「って言うか、京一がどういう関係があるのよ?」


「分からないか?」



…はあ?



真剣な表情を浮かべる亮平に対してただただ疑問を感じてしまったわ。


だけどそんな私を見ていた亮平は笑いだしそうになっているのよね。



「本当に、シェリルはそういうところが全然ダメだな。」



…は?


…だから、何が?



男の気持ちが分からないと言ってしまえばそれまでだけど。


亮平の考えは理解できないことが多すぎるわね。



「何が言いたいの?」


「…はっきり言うぞ。」


「だから、何なのよ?」


「俺もシェリルが好きだってことだ。」



………。


………。


………。



「…はあっ!?」



亮平の告白を聞いた瞬間に、

本気で睨み付けてしまったわ。



「あんたっ!自分が何を言ってるのか分かってるの!?」



亮平の気持ちが嬉しいとか嬉しくないとかそんな次元の問題じゃないのよ。



「あんたには絵里香がいるじゃないっ!!」



亮平と絵里香の関係は倉嶋様も公認の仲だし、

イーファ魔術師ギルドで二人の関係を知らない人なんていないわ。



「亮平には絵里香がいるでしょっ!!」



それなのに私が好きだと言ってしまった亮平の考えが理解できなかったのよ。



「そんな馬鹿げた発言を絵里香が聞いたら…っ!」



絵里香が悲しむって考えたんだけど。


どうやらすでに手遅れだったようね。



「…もう知っていることだ。」



…は?



「すでに絵里香には全てを話してきた。」



…話してきた?


…絵里香に?


…何を?



色々と納得できない部分はあるけれど、

亮平はこれまでのいきさつを聞かせてくれたのよ。



「俺がシェリルを愛していることを…。そしてイーファを離れるつもりでいることも…全て話してきたんだ。」



…なっ!?


…冗談でしょ!?



「う、嘘よね…?」


「絵里香は…泣いていたよ…。」


「そっ、そんなの当然じゃないっ!!やって良いことと悪いことの判断さえできないの!?」


「…分かっているさ。だが、分かっていてもそうすることしか出来なかったんだ…。」


「だからっ、どうして…っ!?」


「俺もシェリルが好きだからだ!!」



…っ!?



「シェリルを手放したくなかった。出来ることならシェリルを手に入れたかった。だが、俺は澤木君の気持ちも分かっていた。だから今まで何も言えなかったんだ。」


「ま、まさか…あの時に喧嘩してたのって!?」


「ああ…。シェリルを諦めなければならなくなった澤木君をもう一度立ち直らせようとしたんだ。」



………。


…そう。


…そういうことだったのね。



どうして喧嘩なんてしてたのかずっと疑問に感じてたんだけど。


グランパレスでの試合の意味はどちらが私を手に入れるかを賭けた戦いだったということよ。



「それにシェリルが澤木君に好意を持っていることも何となくだが感じていた。」



………。



「だから澤木君がシェリルを求めるのなら俺は身を引こうととも考えていたんだ。」


「だったら、どうして…?」



どうして絵里香と別れる必要があったの?



「だからこそだ!こんな俺が澤木君とシェリルを取り合うためには生半可な気持ちでは勝てないと思ったんだっ!」



…何よそれ。



「だから?だから絵里香を捨てたって言うのっ!?」


「ああ、そうだ。」


「ふざけないでっ!!」


「…っ!」



亮平の自分勝手な想いを聞いた瞬間に、

無意識のうちに亮平の頬を叩いていたわ。



…そんなの!



「そんなの、自分勝手すぎるわよっ!!」


「ああ、分かってる。だが、それでも俺は澤木君と対等な立場でいたかったんだ。帰る場所を自ら壊して…逃げ場をなくしてから澤木君と向き合おうと思ったんだ。」



………。


…私を手に入れるために?



「そんな理由で絵里香と別れたって言うの!?」


「ああ、そうだ。そうすることで例えシェリルが澤木君を選んだとしても後悔しないように、俺は俺の道を決めたんだ。」



…そんなのっ。



「そんなの何もかも失うだけよ…っ!!」


「そうかもしれない。だがそれでも俺は絵里香と別れることでしか澤木君と向き合うことが出来なかったんだっ!!」



………。



ただ一途に私を愛してくれた京一と対等であるために?


亮平も絵里香を忘れて私だけを愛する方法を選んだっていうの?



「俺もシェリルを愛しているんだ。だからこそ、俺は澤木君と話し合ったんだ。」


「…何を?」


「互いに互角の条件で愛して、互いに正々堂々と奪い合うことを、だ。」



………。


…何よ、それ。



発言自体は公平に思えなくもないわ。



…だけどこれってどう考えても京一が不利よね?



だってそうでしょ?


結果的に京一に選択肢なんてなかったんだから。



…それに。



仮に国王就任の話がなかったとしても、

京一が亮平のわがままを聞き入れる理由なんてなかったはずよ。



亮平にはすでに付き合っている人がいるわけだから。


絵里香を捨ててまで私を奪い合いたいなんて自分勝手な考えを受け入れる必要なんてないわよね?



…それなのに。



京一は亮平の考えを受け入れたっていうの?



「澤木君はこんな俺を素晴らしい人だと言ってくれたよ。俺の考えは多くの人に後ろ指を指されると分かっていながらも、彼は俺の想いを認めてくれたんだ。そして、シェリルを愛することを許してくれたんだ。」


「…本当に?」


「ああ、本当だ。その話をしたのはクアラ国が敗北を認めてからイーファに戻る船の中だったんだが、彼は俺を馬鹿にせずに、俺を卑怯だとも言わずに、ただ純粋に俺の想いを認めてくれたんだ。」



…ったく、あのバカは。



「本当に、どこまでお人好しなのよっ!」


「ああ、俺もそう思う。だが、だからこそ俺は澤木君がシェリルに告白するまで手を出さないと彼に誓ったんだ。あくまでも澤木君の想いを優先して、澤木君がシェリルを諦めたときにだけ、俺は俺の想いを打ち明けようと考えていた。」



…だから。



「だから今まで黙っていたのね…。」


「ああ。彼が唯王女と結婚して全てを見届けるまでは黙っていようと考えていた。」



…だからなの?



だから自分の人生を決めた京一がグランパレスの舞台で私を諦めてからもずっと今まで何も言わなかったのね。



「そして今、俺はようやく最後の義理を果たした。」



………。



京一を見守ることで、

京一の運命を見定めたから。



「ここから先はもう彼に遠慮する必要がない。だからこそはっきりと言わせてもらう。」



例えそれがどれほど愚かで。


どれほど大切な人を傷付けるとしても。


亮平は私への愛を宣言してきたのよ。



「俺にはお前が必要なんだ。シェリル。俺はお前を愛している。」


「…ふっ、ふざけないでっ!」


「ふざけてはいない。俺は本気でお前を愛している。だからこそ、俺は絵里香と別れたんだ。」



…そんなのっ!


…そんなの勝手すぎるわよっ!



「そんなのっ!絵里香が可哀想じゃないっ!」


「ああ、そうだな。絵里香もそう言っていたよ。だが、それでもあいつは俺に言ったんだ…。私の代わりに…シェリルを幸せにしてあげてほしい、とな。」



…なっ!?



「どう…して…っ?」


「絵里香にとってもシェリルはそれだけ大切な存在だったんだろう。だから…自分が幸せを失っても…お前の幸せを望んだんじゃないか?」


「そんなのっ!そんなの亮平の勝手な想像でしょっ!」


「…そうかもしれない。だが、絵里香は泣きながら…笑っていたんだ…。全てを諦めてしまったかのように笑って…。全てを受け入れるかのように泣きながら…。俺を憎まずに…お前を憎まずに…ただ『さよなら』と言ったんだ…。」


「そ、そん…なっ…。」



…そんなの、最悪じゃない。



まだ亮平を憎んだのなら理解できるわ。


あるいは私を恨んでくれたのなら、

私も亮平の気持ちをきっぱりと拒絶できたはず。



…なのに。



絵里香は亮平の想いを優先して私のために身を引いたのよ。



「絵里香が…?」



絵里香が私のために亮平を手放した。


その事実に戸惑いを感じてしまったわ。



「どうして…絵里香が…?」



亮平を手放してしまったのかなんて、

その答えは聞くまでもないでしょうね。



…そうまでしなければいけないほど、私が孤独に見えたのよ。



亮平も。


絵里香も。


そして京一も。



私を想う誰もが私を孤独から救おうとしているのよ。


それは確認するまでもなかったわ。



…私のせいで。



また一人、悲しみを抱く犠牲者が出てしまったのよ。



…ごめんね、絵里香。



親友だった絵里香を思いながら、

もう一度だけ亮平に確認することにしたわ。



「…だから、だから京一に会いに行けなかったのね?」



絵里香と別れたから。


絵里香がいる首都にいけなかったということよ。



「それで、亮平はこれからどうするつもりなの?」



絵里香と別れて。


私にも突き放された亮平がこれからどうするつもりなのかを問いかけてみると。


今後の方針を聞かせてくれたのよ。



「俺にはもう居場所がないからな。米倉宗一郎さんと杞憂玄夜さんに話を通して大陸中部の多方面探索部隊に加えてもらえるようにしてもらったんだ。」


「大陸中部に…?」


「ああ、そこではまだ俺達の知らない絶望が蔓延まんえんしているそうだ。すでに天城総魔や冬月彩花などの有力な魔術師達が潜入しているらしいが、その戦場に俺も向かうことにした。」



…ふぅん。


…天城総魔、ね。



生きていたっていう噂話くらいは私も聞いてるけど。


大陸中部は今回の戦争のせいで今まで以上に危険な状況になってるらしいわね。


その程度の話は私も聞いているわ。



「向こうに行けば生きて帰ってこれる保証なんてどこにもないわよ?」


「ああ、分かっている。だが、こうでもしなければ絵里香に顔向けできないからな。」


「…馬鹿なことをしたわね。」


「ああ、自分でもそう思う。だが、それでも俺はシェリルがほしいんだ。」



…ふんっ。



「悪いけど私は恋人と別れた程度で手に入るほど安い人間じゃないわよ?」


「もちろん分かっているさ。澤木君が愛したほどの女だからな。そんな簡単に手に入れられるとは思っていない。だからシェリル。俺と一緒に来てくれないか?今すぐには無理でも、いつか必ずお前の心を手にいれて見せる。そしていつか必ず、お前を幸せにして見せる。」



…へぇ~。


…私を幸せに、ね。



「そんなことが出来るかどうか知らないけど。馬鹿な亮平が一人で大陸中部になんて行ったらすぐに殺されるのがオチなんだから、手を貸してあげるくらいは別にいいわよ。」


「ほ、本当かっ!?」



…ええ。



「北の問題を解決することも大陸南部が安定するためには必要な作戦だし、密偵として参加する意義はあると思うわ。」



大陸中部の問題を解決して共和国やシルファスを守れれば、

御堂龍馬や澤木京一の負担を少しは減らすことができるはずよ。



「まあ、亮平の気持ちはともかくとして、一緒に行ってあげるくらいは別にいいわよ。」



自分を愛してくれる馬鹿を放り出すことはできないしね。



「ちゃんと面倒を見てあげるわ。」



まあ、亮平の愛を受け入れるかどうかはまだ何とも言えないけど。



「それに、馬鹿の面倒を見るのが私の仕事みたいになってるしね。」



京一や亮平の面倒を見るのは別に嫌いじゃないのよ。



「一応、手を貸してあげるわ。」



それで亮平の気がすむのなら。


そうすることで京一が少しでも安心できるのなら。



…絵里香はどうしようもないけれど。



再び戦場に向かう覚悟を決めることはできたわ。



「今度の舞台は大陸中部で、次の標的は《闇の一党》ね。」



竜の牙に並ぶ戦闘集団。


解放軍と言う名の狂気と戦うために。



「それじゃあ、いくわよ。」



亮平と二人でイーファを離れることにしたわ。



…あ~、でも、あれよね。



一緒に行く以上は私より先に死ぬことは許さないわ。



「私に愛されたいのなら、ちゃんと私を守りなさいよ?」


「ああ、もちろんだ。俺の生涯をかけてお前を守り抜く!そしてシェリルの愛を手にいれて見せる!」



…ふふっ。


…それなら良いのよ。



私よりも先に死なないって約束してくれるならそれで良いの。



「ちゃんと生き延びることが出来たら考えてあげるわ。」


「ああ、それで良いさ。」



…ふふっ。


…まあ、亮平なら悪くはないわね。



そういう人生も悪くはないと思うわ。



…同じ密偵だし、ね。



少なくとも身分の違いで悩むことはないから。



…気が向いたら考えてあげるわよ。



今すぐには無理だけど。


他にやりたいことがあるわけでもないから。



無謀な旅に出る亮平を守るために大陸南部から旅立つことにしたわ。


生存者(40)《シェリル・カウアー》



亮平と共に旅立ってからすぐに大陸中部へと渡る。


その後、各部隊と情報を交換しながら竜導寺清隆との戦いに参加して、

総魔や慶太達と共に最終決戦へと挑む。




生存者(41)《桐島亮平きりしまりょうへい



シェリルと共に大陸中部へ渡ったあと、

複数の部隊を指揮しながら徐々に共和国の勢力を広げていく。


のちに竜の牙の幹部として慶太に迎えられてからも、

シェリルの愛を手に入れるために日々努力を続けていく。




生存者(42)《倉嶋善治くらしまぜんじ



京一が国王就任後に魔術師ギルドを引退して故郷へと帰り。


静かに余生を過ごすことにした。




生存者(43)《倉嶋絵里香くらしまえりか



亮平が旅立った直後に妊娠していた事実を父に告げてから失踪する。


その後。


生まれてきた双子の男の子にそれぞれ亮平と賢治の名前をつけるのだが、

子供達と共に消息不明となる。



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