最後の切り札
《サイド:美袋翔子》
う~ん。
どんどん差が埋まっていくわね。
総魔に勝つ為の最後の希望は魔力の総量だけになったかも?
こうなると力ずくで総魔の魔術を押さえ込んで、
直接的に魔術を直撃させられるかどうかよね。
そこが最後の作戦なんだけど、
それが実現するかどうかは実際に戦って見ないと分からないわ。
一応はまだ『最後の切り札』と言える力があるのはあるんだけど…。
それすらも総魔に勝てる保証はないのよね~。
…って言うか。
その『切り札』を総魔に持たせる事が私の役目なんだし。
切り札が切り札と言えないのが辛いところよね。
「傍で見てて思うんだけど、着々と強くなってるわよね~」
内心の焦りを気付かれないように明るく振る舞いつつ。
さりげなく今後の予定を尋ねてみる。
「それでこのあとはどうするの?次の会場に行く?」
これからどこに向かうのかを聞いてみたんだけど。
何故か総魔は首を左右に振ったわ。
「いや、今日はもう試合はしない。アルテマがあれば上を目指すのはたやすいが、ただ勝ち上がるよりも重要な事があるからな」
試合よりも重要なこと?
…って、うわっ!
総魔の言葉を聞いた瞬間に背筋が凍りつくような寒気を感じてしまったわ。
一応、予想はしていたけれど。
すでに総魔は『次の力』を求めているみたい。
こうなると当然、ルーンでしょうね。
「ようやく、この時がきたって感じね」
大きく深呼吸してから生徒手帳を開いてみる。
見せたいのは学園の地図よ。
「ここ、見てくれる?」
地図の北部を指差してみると、
ちゃんと総魔が視線を向けてくれたわ。
「その場所に何かあるのか?」
ええ、そうよ。
「ここに魔術研究所があるの。基本的には魔術の分析や新理論の構築とか、様々な研究がされてるんだけどね。そういうのとは別に、この研究所の地下には大規模な施設があるの」
施設というか。
もう一つの研究所なんだけどね。
少し遠回りな表現をしながら総魔の瞳を見つめてみる。
「私が何を言いたいのかは…分かるわよね?」
「ああ、そこに行けばルーンについて知る事が出来るという事だな」
「正解」
察しがいいのが総魔の良いところよね。
まあ、良すぎて困ってる部分もあるんだけど。
ひとまず今回は満足気に頷いてから話を続けてみる。
「本来ならルーンを使える人しか入れてもらえない場所なんだけど、今回は私が話を通しておくわ。だからもしも詳しい事が知りたいのなら、一度ここに行ってみたら?」
「ああ、そうだな。興味はある」
「なら決まりね」
もう一度、頷いてから席を立つ。
試合がないなら私が監視する必要はないしね。
「もう監視する必要がなさそうだし、今日はこれで帰るわね。それと、一応、話は通しておくけど。すぐにってわけにはいかないだろうから一時間くらいしてから行けば入れてもらえると思うわ」
「わかった」
総魔の返事を確認してから、背中を向けて歩き出す。
一人で残された総魔は急ぐ事もなく、
のんびりと休憩を続けてる。
実際にどうするかは知らないけれど、
ひとまず予定の時間が過ぎるまで大人しく待つ事にしたようね。




