破壊の王
《サイド:栗原薫》
時刻は午後8時。
式を終えた美春さんが学園の寮で旅立ちの準備のために荷物をまとめている頃。
成美との挨拶を済ませてから学園に戻ってきた私は、
マールグリナへ帰るために馬車を用意してくれている学園長と一緒に学園の正門付近で米倉元代表や御堂君達と別れの挨拶をしていたわ。
「しばらく会えないと思うと寂しくなるけど…やっぱりきみも行くんだね。」
…ええ。
「だけどその前に私は私でちゃんと卒業してから兄貴に会いに行こうと思うから、一度学園に戻るけどね~。」
「…ははっ。総魔が兄貴か…。」
………。
すでにおおよその事情を米倉元代表から聞いてる御堂君は、
これから私がどこへ向かうつもりなのかも理解しているようね。
だけど御堂君は自分から私達について行くとは言わなかったわ。
「御堂君はこの国に残るんでしょ?」
「ああ、まあ、ね。正直な気持ちを言えばきみ達と一緒に総魔を追いかけたいと思うんだけど…。だけど今は止めておくよ。きっと総魔は僕が追いかけることを望まないだろうし、僕にもやらなければいけないことが沢山増えたからね。」
…でしょうね。
まあ、そうなるように兄貴が仕向けたわけだけど。
「御堂君はこれから共和国の代表として頑張っていかなきゃいけないわけだし、兄貴と一緒に旅に出てる暇はないと思うわよ。少なくとも、そんなふうに自分の役目を放棄してしまうことを兄貴は認めないでしょうしね~。」
「ああ、分かっているよ。だから僕はこの国に残ると決めたんだ。そして総魔や栗原さん達が安心して旅を続けられるようにこの国を守って見せる。それが総魔のために出来る恩返しだと思っているからね。」
…うんうん。
それで良いんじゃないかしら。
御堂君には御堂君の役目があるわけだしね。
それにこれは御堂君にしか出来なくて御堂君だからこそ安心して任せられることだと思うから、
だから御堂君にはこれからもちゃんと兄貴の期待に応えられるように頑張ってほしいと思っているわ。
…きっとそういう未来を沙織や美袋さんも願っていると思うしね。
「みんなの想いに応えるためにも、これからもこの国をちゃんと守ってよね。」
「ああ、約束するよ。僕はもう二度と戦争を繰り返させない。そして誰もが安心して暮らせる国にしてみせる。栗原さんが命がけで願った理想を実現させるために、『誰もが笑って生きられる世界』を実現して見せるよ。」
…うん!
御堂君ならきっと出来ると思うわ。
だって御堂君はとっても優しい破壊の王様なんだから。
「どんな苦しみや悲しみも破壊して、光の溢れる世界を実現できると信じているわ。」
「は、ははっ。破壊か…。あまり実感はないけれど、僕の能力を考えるとそうなのかもしれないね。」
…ふふっ。
「絶望を破壊するために生まれた優しい悪魔…なんてね。」
「ははっ。きみらしい表現だね。」
…そう?
「まあ、別に悪意がある訳じゃないけど、向こうが殺戮を認める天使なら、御堂君は殺戮を認めない悪魔。って、感じじゃない?」
「うーん…どうだろうね?今となっては総魔と肩を並べられる立場じゃない気もするんだけど…ね。」
…あははっ。
それは考えすぎだと思うわ。
「誰がどう考えたって御堂君以外に兄貴と対等に渡り合える人なんていないと思うし、試合の結果だけで格差を感じる必要はないと思うわよ。」
「…そうなんだけどね。それでもやっぱり感じてしまうんだよ。僕は総魔には届かないんだってね。どれだけ頑張っても総魔はその先へ行ってしまうんだ。僕の手の届かないところへ…そしてみんなの手の届かないところへ…。そうして誰も手の届かない世界へ行ってしまうんだ…ってね。そんなふうに思ってしまうんだよ。」
…ん~。
まあ、それは否定できない部分もあるけど。
「それでもやっぱり今の兄貴にとって親友と呼べるのは御堂君だけだと思うし、兄貴が心を許せる相手は御堂君だけだと思うわよ。」
「…だと良いんだけどね。」
「相変わらず…って言っちゃうと失礼かもしれないけど、御堂君は変わらないわね。」
「はは…っ。そうだね。時々、自分でも情けないって思うことがあるよ。もっと自信をもって生きていければ良いと思うんだけど…この性格はなかなか直りそうにないね。」
まあまあ、無理に直さなくても良いんじゃない?
「今の御堂君をみんな信頼してくれてるわけだし、迷いや悩みを乗り越える勇気さえあればそれで十分だと思うわよ。」
「ああ、そうだね。本当に僕もそう思うよ。何度挫折しても諦めなければ夢は叶うんだ。そのことを総魔に教わったからね。だから僕は僕の道を行こうと思ってる。もう二度と総魔には会えないとしても、それでも僕は僕に出来ることをやっていこうと思うんだ。みんなのために…そして総魔やきみ達のために…僕はこの国を守って見せる。それだけは約束しておくよ。」
…うん。
…ありがとう。
「そう言ってもらえるだけできっと兄貴も喜んでくれると思うわ。」
「ははっ。そうだと良いんだけどね。でもまあ、実際に何ができるのかはまだわからないから少しずつ頑張ってみるよ。僕にも…僕の周りにも僕を支えてくれる大切な仲間達がいるからね。」
…ええ、そうね。
この国に残る覚悟を決めた御堂君は周囲にいる仲間達をゆっくりと見回したわ。
すぐ側にいてくれる長野君や芹澤さんや矢野さんに和泉さんや木戸君や須玉さん。
そして米倉元代表と黒柳さんに西園寺さんや藤沢さん。
さらには近藤学園長や近藤さんも御堂君への協力を約束してくれてるのよ。
「ここにいるみんなもそうだけど、ここにはいない沢山の仲間達も僕を支えてくれているんだ。だから…だから僕はこの国にとどまってこの国を守っていこうと思う。いつの日にか…きみ達がこの国に帰ってくることが出来るように、そうなれるように頑張ってみるつもりでいるんだ。」
兄貴と一緒に旅立つんじゃなくて兄貴が帰れる場所を守ること。
それが御堂君の出した答えだったわ。
「きみ達が安心してこの国に戻ってこられるように全力を尽くすよ。」
…あはっ。
「御堂君らしい考えよね。」
「そうかな?まあ、総魔もそう言って笑うだろうけどね。だけどそれが僕の本心で僕の願いなんだよ。」
兄貴の旅立ちを見送るだけじゃなくて兄貴の故郷を守ること。
その想いを実現するために兄貴とは異なる道を選ぶと言ってくれたのよ。
「僕はこの国に残る。そしてきみ達の帰りを待つよ。」
そのために出来る全ての役目を果たすことを約束してくれたわ。
「この国がきみ達の故郷なんだ。そのことだけは忘れないでほしいと伝えてくれないかな。」
「ええ、もちろん約束するわ。兄貴にはちゃんと伝えるし、もしも叶うなら力ずくで兄貴を引っ張って帰ってくるわね。」
「ははっ。ありがとう。そうなる日を楽しみに待っておくよ。」
…ええ。
いつの日にかもう一度再会を。
そんなふうに願う御堂君と話し合っている最中に。
「お待たせ~!」
旅立ちの準備を終えた美春さんが駆け寄ってきてくれたわ。
「遅くなってごめんね。」
「ううん。全然、大丈夫。」
私もそうだけど。
「学園長も米倉さん達と話し合っててまだ時間がかかりそうだし、そんなに待ってたわけじゃないから気にしないで。」
「あれ?そうなの?だけど待っててもらってるのは事実だし、それなりに気にするんだけど…。」
「気にし過ぎじゃない?」
「………。」
大丈夫と言ってもまだ時間を気にしてしまう様子だったから、
とりあえず美春さんと一緒に周囲を見回してみることにしたわ。
だけどね。
やっぱりまだ学園長は米倉元代表や近藤学園長達とゆっくりと別れの挨拶をしてるのよね~。
「ね?まだまだっぽいでしょ?」
「…ええ、そうね。」
どちらかと言えば私達が学園長を待ってる状況なのよね~。
そのことが分かったからか、
美春さんはほっと安堵の息を吐いていたわ。
「確かにのんびりとしてる感じはあるわよね。」
…でしょ?
美春さんとしては焦って用意してきたんでしょうけど。
実際にはまだまだ出発まで時間がありそうなのよね。
「でもまあ、間に合ったのなら良いかな。」
…まあ、ね。
必要な荷物は全て揃えてあるみたいだし、
今さら寮に戻る必要はないと思うわ。
「大した荷物はないけど、馬車にのせても良い?」
「ええ、どうぞどうぞ~。」
「ありがとう。」
私の許可を得たあとでマールグリナの馬車に荷物をのせようとした美春さんだけど。
その様子を見ていた御堂君が話しかけようとしていたわ。
「あれ?荷物はそれだけかい?」
「あ、はい。そうです。」
「旅をするには少なくないかい?」
…う~ん。
…どうなのかしらね?
少し大きめの鞄ではあるけれど。
いつ帰ってこられるかわからない長期の旅と考えれば荷物が少ないような気がしないでもないわ。
だけど美春さんには美春さんの考えがあるようで、苦笑しながら答えていたのよ。
「持ち運べる重さに限界がありますから…。」
…そうなのよね~。
「今はよくてもこの先の旅に馬車があるとは限りませんし、おそらくほぼ徒歩だと思うので、出来るだけ最小限の荷物にしておきました。」
「ああ、うん。まあ、それはそうだろうけど…。寮にある荷物はどうするんだい?もし良かったら僕達で鈴置さんの実家まで届けるけど…。」
「あ、それなら大丈夫です。寮にある荷物は全部、千夏に整理するように頼んでおきましたので、明日中には家に運んでもらえると思います。」
「へえー。そうなんだ。だったら心配はいらないかな。」
「ええ、その辺りは千夏に任せてますし、千夏は千夏で実家に帰る準備をしてると思いますので、私達のことは気にしないでください。たぶん、大丈夫ですから。」
「ああ、分かったよ。それじゃあ森下さんに声をかけて、もしも必要そうなら芹澤さん達に手伝ってもらうよ。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
…ふふっ。
正直に言えば森下さんだけでは不安が残ると考えていたのかもしれないわね。
御堂君の配慮は少し嬉しい申し出だったように見えたわ。
「もしも千夏がダメそうならお願いします。」
「ああ、任せておいて。」
快く引き受けてくれた御堂君は、
美春さんの旅立ちも見送ろうとしていたわ。
「きみも総魔と一緒に行くんだね。」
「はい。私の場合は少しみんなとは目的が違う気もしますけど、彼の傍にいたいと思う気持ちは同じですから…。」
「目的か…。鈴置さんは何のために旅立つんだい?」
「それは…彼のことが好きだからです。」
…おぉ~。
戦いを望まない美春さんが何を目的として兄貴と一緒に戦場に向かうのか?
その目的をはっきりと宣言したのよ。
「天城君のことが好きなんです。それは決して友達とか仲間とかそういう意味じゃなくて、もっと純粋に…。」
「総魔を愛している…ということかな?」
「あ、あははは…っ。まあ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれません。自分でもどう説明すれば良いのか分かりませんけど、きっとそういうことなんだと思います。たぶん私も…翔子と同じように…彼を好きになっちゃったんだと思います。」
…うんうん。
…やっぱりそういうことなのよね~。
私はまだそこまでの感情はない…と言うか、
兄貴は兄貴として見てるから恋愛対象ではない…と思ってるんだけど。
それでもちょっぴり複雑な気分よね。
もしも…もしもよ?
もしも兄貴と美春さんが付き合ったとしたら?
私とか優奈の立場ってどうなるの?
もしかしていらない子?
むしろ、お邪魔な子?
色々と思い浮かぶことがあるんだけど。
ここで悩んでいても仕方がないわよね。
…まあ、私達のことは置いておくとして。
照れ臭そうに微笑みながらも自分の想いを隠さずに話す美春さんの気持ちを聞いた御堂君は、
素直に美春さんが羨ましいと思ったみたい。
「きみが羨ましいよ。そんなふうに自分の気持ちを正直に言えて…自分の目標に向かえるきみが羨ましいよ。」
「そ、そうですか?私から見れば御堂先輩のほうがすごいと思いますし、誰もが憧れる存在だと思いますけど…。」
「そうかな?」
「ええ、そうですよ。それに御堂先輩にはもう素敵な人がいるじゃないですか。」
「え?あ、いや…。そ、それは…どうだろうね…。」
美春さんの追求を受けて戸惑う御堂君だけど。
それでも美春さんは楽しそうに微笑み続けていたわ。
「成美ちゃんを幸せにしてあげてくださいね。」
「あ、あー…うん。頑張ってみるよ。」
美春さんの指摘を否定せずに努力を約束する御堂君の返事を聞いてから、
美春さんも御堂君に約束していたわ。
「天城君は私が守りますから。」
「ああ、お願いするよ。」
「はい!」
お互いに約束を交わして微笑む。
そんな二人の会話を隣で聞いていた私も密かに笑顔を浮かべていたのよ。
…まあ、これはこれで幸せな結末よね。
成美も美春さんも好きな人と共に過ごせるからよ。
それがなによりも素敵な未来だと思っていると。
「…薫さんも、ね。」
美春さんが話しかけてきたわ。
「好きな人のためなら命がけで頑張れる。それは薫さんも一緒でしょ?」
…え?
…あ~、まあ、うん。
「一応、ね。」
私も兄貴を愛しているから。
それは決して恋人としてではなくて兄妹としてだけど。
それでも美春さんの気持ちは私にも十分理解できたのよ。
「まあ肝心の兄貴を幸せにするっていうのが一番難しい課題なんだけどね~。」
「ふふっ。確かにそうかも。」
「あはははっ。そうだね。そこが一番難しい問題だよね。」
私の言葉を聞いて笑いだした美春さんと御堂君は、
最大の課題をどう乗り越えるかを全力で考えようとしていたわ。
「こればかりは誰かが頑張るだけでは無理だろうね。」
…でしょうね~。
「みんなで協力しあわないと出来そうにないですよね。」
「ああ。だけど決して出来ないことじゃないはずだ。」
…ええ、そうね。
「諦めなければどんなことだって出来る。それこそ、総魔を幸せにすることだってね。」
「はいっ。」
…うん。
「僕たちみんなで頑張ろう。」
「はい!!」
…ええ!
御堂君と美春さんだけじゃなくて。
私や優奈だけでもなくて。
兄貴を知る全ての人達で兄貴の幸せを創りあげる。
そんな未来を誓いあう私達がいる正門前に、
あまり見慣れない教師が慌てた様子で駆け寄ってきたわ。
「米倉様っ!学園長っ!た、大変です…っ!!」
大きな声で危機を訴えながら駆け寄る教師。
その慌ただしい雰囲気に異変を感じた米倉元代表が振り返るのとほぼ同時に。
「保護観察中の生徒達が学園から逃走しましたっ!!」
駆け付けた教師が緊急事態を告げたのよ。
「鎌田俊雄と渋沢東吾を含む数十名の生徒達が生徒指導室を破壊して逃走しました!!」
「何ですとっ!?」
「また暴れだしたのか…。」
…うわぁ。
…何だか面倒なことになったわね~。
教師の報告を受けて驚き戸惑う近藤学園長とは対照的に、
米倉元代表はため息を吐きながら落ち着いて今後の方針を考えていたわ。
「ふぅ。せめて今日一日くらいは大人しくしておいてほしかったのだが、こうなってしまっては仕方がないな。」
どうも御堂君の卒業試験のために学園で蓄積していた全ての魔力を使い果たしたことで、
生徒指導室の結界が上手く作動しないことはすでに分かっていたようね。
だけど病み上がりの鎌田君達に逃走するだけの力があるとは考えていなかったみたい。
そのせいで入り口の封鎖が不十分だった隙をつかれたのかもしれないわ。
「再び捕獲作戦を開始する!御堂君の指揮の下で全ての風紀委員を動員して脱走した生徒達の捕獲を行うのだ。」
「はいっ!!」
生徒達を捕獲する方針を定めた米倉元代表の指示を受けた御堂君が動き出したわ。
「敦也!すぐに風紀委員を町の全域に派遣するんだっ!」
「おう!任せろっ!」
「芹澤さん達も協力してほしい。これ以上、町の人達に迷惑をかけるわけにはいかないからね。日付が変わるまでに全ての生徒を捕獲するんだ!!」
「ええ!任せてっ!」
指示を受けて即座に駆け出す長野君と芹澤さん。
そんな二人の後を追う矢野さんが木戸君や須玉さん達と一緒に走り出したんだけど。
「和泉さんは僕と一緒に行動してもらうよ。」
御堂君は和泉さんを手元に残すことにしたみたい。
「きみにはこれからこの学園を守ってもらうことになるからね。僕に教えられる全ての情報を伝えておくよ。」
「ええ、よろしく。」
…なるほど~。
御堂君の後を継いで特風の指揮官になる和泉さんに全ての権限を引き継ぐために手元に残すことにしたのね。
「この作戦の指揮はきみに委ねる。僕がいなくなってからも上手くやっていけるように全てを教えるよ。」
…うんうん。
…良い判断だと思うわ。
長野君達まで学園を卒業するせいで必然的に1位の座を受け継ぐことになる和泉さんに引継ぎをするのは大事よね。
「これからはきみが特風を動かすんだ。」
今回の作戦は『世代交代』のためにちょうど良い実践になると考えたようで、
御堂君は和泉さんに指揮を委ねようとしていたわ。
「一緒にいこう。」
「ええ!」
最後の指示を出して和泉さんの意思を確認する御堂君に、
和泉さんはしっかりとうなずいて答えてた。
「私に任せて!このくらいの作戦なら余裕で終わらせて見せるわ。」
学園の頂点に立つ者として、
この程度の出来事でつまづくわけにはいかないんでしょうね。
責任者としての役目を引き継ぐの意思を示した和泉さんが御堂君に付き従うことになったのは良いんだけど。
「…結局、最後まで慌ただしいわね。」
「まあ、こういう別れ方のほうが私達らしくて良いんじゃない?」
…かもね。
私と美春さんはお互いに苦笑いを浮かべてしまったわ。
「まあ、これからのことを考えればまだ可愛らしい事件よね~。」
「そこは比べるところが間違ってる気もするけど…。御堂先輩達がいるんだから心配しなくても大丈夫だとは思うわ。」
…ええ、そうね。
「とりあえず私達はマールグリナに行きましょう。あまりのんびりしてると本当に兄貴に置いていかれかねないし。」
「う~ん。それは困るわね。」
「ええ、だから急いで向かいましょう。約束の場所へ…ね。」
「それがどこなのか、私は知らないんだけど…?」
「まあ、その辺りはまたあとで説明するわ。」
美春さんに隠す必要はないんだけど。
御堂君の目の前で説明するわけにはいかないしね。
今は詳細を伏せて学園長に話しかけることにしたわ。
「学園長、そろそろ行きませんか?」
「ええ、そうですね。あまりのんびりしているとまた戦闘に巻き込まれかねませんし、栗原さんの卒業試験が遅くなってしまいますからね。」
…ですよね。
明日の午前中に開始する予定の卒業試験の準備が遅れれば必然的に私の試験もずれ込んでしまうのよ。
「ひとまず私達はマールグリナに戻りましょう。」
米倉元代表達に最後の挨拶を済ませた学園長が馬車に乗り込んでいく。
「それでは準備はよろしいですか?」
もう二度と帰ってこられないかもしれないこの学園に思い残すことは何もないか?
最後の確認として問いかけられたんだけど。
私としては何の未練もないのよね。
「私は良いですよ~。」
お気楽に答えながら馬車の荷台に乗り込む。
「私も大丈夫です。よろしくお願いします。」
美春さんも私の後に続いて馬車の荷台に乗り込んだわ。
…でも、本当にこれでお別れなのよね。
考えれば考えるほど寂しくなってしまうんだけど。
「栗原さんも鈴置さんも元気でね。」
「また会える日を心待ちにしている。」
御堂君も米倉元代表も笑顔で見送ってくれたのよ。
…うん。
…そうよね。
ここで泣き顔なんて見せていたらみんなに笑われちゃうだろうから、
最後は笑顔でお別れするべきなのよ。
「今までお世話になりましたっ。」
「みんな、またね~!」
御堂君達に見送られながら学園の正門から離れていく。
そうしてマールグリナに向かって出発した馬車の中から、
徐々に遠くなっていく御堂君達に向けてしっかりと手を振り続けたわ。
生存者(4)《和泉由香里》
龍馬達が卒業後、
正式に特風の指揮官に昇格する。
そして。
一年後に訪れる常磐成美の保護者として、
成美の成長を見守りながら学園の治安に全力を尽くす。
生存者(5) 《木戸祐樹》
和泉由香里の補佐として特風を支えつつ、
少しずつ成績を伸ばしながらルーン研究所への就職を目指す。
生存者(6) 《須玉聡美》
和泉由香里や木戸祐樹と共に特風を支えつつ、
常磐沙織と神崎慶一郎の後を継いで治療系魔術の研究を行う。
のちに治癒系魔術研究室の室長にまで上り詰める。
生存者(7)《渋沢東吾》
学園から逃走後。
数名の仲間を引き連れてジェノスから逃亡。
その後の行方は不明だが、
ミッドガルム北部の国境から大陸中部に向かった姿だけは目撃されている。
生存者(8)《鎌田俊雄》
学園から逃走後。
渋沢達とは別行動をとり、
港の漁船を奪って単身で共和国を離れる。
その後の足取りは不明だが、
一度だけアルバニア王国北部の国境から大陸中部に向かう姿が目撃された。




