旅の始まり
「…今の人は?」
「翔子の母だ。」
「…ですよね。」
…ああ。
優奈も翔子の母の顔は知っているからな。
俺達の会話に入れずに近づくことが出来なかったのだろう。
「翔子先輩のお母さんと何をお話していたんですか?」
「…翔子の話だ。」
「…ですよね。」
…ああ。
「………。」
………。
「………。」
………。
分かりきっていることを聞いてしまったことで、
次に何を話すべきかを悩んでいるようだな。
そんなふうに気にする必要はないのだが、
単なる興味ではなくて俺を心配してくれているのは感じられた。
…ふぅ。
…もう少し説明しておくか。
優奈の配慮に感謝しながらも、
受け取ったばかりの翔子の日記を見せることにした。
「翔子の形見を届けてくれたんだ。中身はまだ確認していないが、翔子の学園での思い出が記されているらしい。」
「翔子先輩の日記…ですか?」
…ああ、そうだ。
この日記にどれほどの想いが込められていて、
どれほどの心が記されているのか?
それはまだ俺にも分からないが、
内容を想像した優奈は翔子の日記に対して微笑みを向けていた。
「とても大切な想い出の品ですよね。きっと沢山の幸せな思い出が一杯詰まっていると思います。」
…ああ、そうだろうな。
優奈も翔子の笑顔を思い浮かべたのだろう。
「きっと、楽しい思い出が沢山書かれていると思います♪」
…ああ。
翔子ならそうするはずだと考える優奈の気持ちは俺にも十分理解できた。
「優奈が思うような内容がここには記されているはずだ。」
幸せな日々を過ごした翔子の記録がこの日記には残されていると思う。
「ここには翔子の幸せが残されている。それさえ分かっていれば十分だ。」
わざわざ中身を確かめなくても翔子の想いは想像できる。
いつかは全てを読んでみたいとは思うが、
今は信じる気持ちだけで十分だった。
「翔子の想い出を届けてくれた母の想いに感謝する。この日記は…翔子が残してくれた最後の手紙共々、大切に保管させてもらう。」
大した荷物を持たない俺だが、
翔子の想い出だけはこれからも大切にしようと思えた。
「行くぞ優奈。遅くなれば御堂達に勘付かれるかもしれないからな。」
もう思い残すことは何もない。
かつてはたった一人でこの町に訪れた俺だったが、
今ではどこまでも追いかけてくれる優奈がいるからだ。
「ミッドガルムに戻るぞ。」
「はいっ!総魔さんと一緒でしたら、どこまででもお供しますっ♪」
「ああ、ここからが俺達の旅の始まりだ。」
俺の呼び掛けに応じて共に歩みを進めてくれる優奈と二人で、
ジェノスの町から旅立つことにした。
以上で総魔編も終了です。
本編としてはこれで終わりになるのですが、
最後にエピローグ(次回予告)だけ続けたいと思います。




