直感だけで
「なぜ、分かった?」
「やっぱりそうなのね!さすが私!翔子の考えはお見通しなのよっ!」
………。
俺と翔子の母に直接的な面識はない。
一応、俺は常磐成美の瞳を通して翔子の母を見たことはあるが、
翔子の母は俺を何も知らないはずだ。
それなのに翔子の母は楽しそうな表情で自分自身を褒めていた。
「もう3時間くらいここで待ってたけど、予想通りここに来てくれて助かったわ。」
「俺を待っていたのか?」
「ええ、そうよ。他にも考えられる場所はあったけど、たぶんここが一番確率が高いかな~って思ったの。」
「…なぜそう思う?」
「ん~。女の勘って感じかしら?船でどこかに行っちゃう可能性もあると思ったけど、今はまともに出航できる船が少ないらしいし、翔子の話だと貴方は恥ずかしがりやさんみたいだから、馬車とかそういう人混みは避けそうだしね。一人でどこかに行こうとしてるなら、きっとここを通るんじゃないかな~って、思ったのよ。」
…正気か?
嘘をついているようには思えないが、
船や馬車などの乗り物を使わない気がするというだけの理由で北門で待ち続けていたらしい。
もしもその言葉が事実だとすれば、
翔子の母は単なる直感だけでここにいたということになる。
「だとしても、なぜ俺が分かった?」
可能性としてここを通るとしても面識のない俺に気づく理由がないはずだ。
それなのに翔子の母は俺に気付いた。
その理由が理解できなかったのだが。
「だって翔子が選んだ相手でしょ?娘の考えそうな男の子くらい何となくわかるわよ。」
名前しか知らずとも、
娘の考えを予測して話しかけてきたと答えた。
…まさか本当に推測だけで気付いたのか?
「ずっと探してたのよ。あの人はどうかな~?でもちょっと違う気がするな~?じゃあ、あっちの人はどうかな~?でも、ん~、違うかな~なんてね。翔子が好きになりそうな男の人を考えながらずっと待ってたの。そしたら一人だけ明らかに雰囲気の違う人がいるじゃない!で、もしかしたら!って思って声をかけたのが貴方だったの。どう?私の勘もなかなかのものでしょっ!」
………。
娘の理想を想い描きながら自分の推測だけで気づいたらしい。
…そのめちゃくちゃな理論は翔子そっくりだな。
どうやら本当に直感だけで俺を探し当てたようだ。
…これも血筋か。
今聞いた説明だけでも翔子の性格がこの母から受け継がれていることが良くわかる。
「大した推理力だな。」
「でしょっ!自分でもすごいと思うのよね~。もう翔子のことならなんでもお見通しって感じで、娘を愛する私の気持ちが伝わってくれて嬉しいわ。」
………。
無邪気な笑顔を浮かべながら明るく話し続ける翔子の母。
その笑顔を見ているだけで翔子の笑顔を思い出してしまう。
「良く似ているな。翔子もそんなふうに笑っていた。」
「ふふっ。母娘だもの、似てて当然でしょ。」
笑顔を絶やさずに笑い続ける翔子の母は、
一瞬だけ自分の荷物を探ってからゆっくりと俺の手をつかみとって大事に保管していた何かをそっと委ねてきた。




