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THE WORLD  作者: SEASONS
5月15日
4785/4820

どの段階で

…ここが北条の屋敷か。



家と呼ぶには大きく。


豪邸と呼ぶほど贅沢な建物ではないのだが。


それでも一般的な家屋よりも遥かに大きい北条の屋敷は、

質素であるがゆえに静かな威厳を放っているように感じてしまう。



「広い庭だが、本来住むべき住人がいないというのは寂しい感じがするな。」



北条辰雄が不在で、

北条真哉はすでにいないからな。



北条の名を受け継ぐ後継者が断たれたことでいずれ滅亡を迎える北条家なのだが。



「これからはここが竜崎雪の…いや、北条雪の家になるのか。」



北条辰雄の養女となって北条の名を竜崎雪が受け継いだために、

この屋敷は北条雪の財産になった。



「私としてはこんなに大きな家を頂いてもどうしようもないんですけどね…。」



義理の父から受け継ぐ財産に戸惑いを感じる様子の竜崎雪だが、

他に後継者がいないことを考えればこのまま捨て去る必要はないだろう。



「ありがたく受けとればいい。そして守り抜けばいい。北条の想いを無駄にしないためにな。」


「あ、はい。それは分かっています。ちゃんと守れるかどうかわかりませんが、私にできる精一杯のことはしたいと思っています。」


「ああ、それで十分だ。」



竜崎雪が養女となったことで必然的に竜崎もここが帰るべき場所となるのだが、

竜崎としても他人の財産には興味がないように思える。



「どうする?中に入っていくかい?」


「いや、いい。」



敷地内へ案内してくれようとする竜崎だが、これ以上の誘いは断っておく。



「幾つか話が聞きたかっただけだからな。学園を離れさえすれば十分だ。」



これから竜崎達の家となるこの場所を確認して、

竜崎雪がこの場所にとどまることさえ確認できれば中には入る必要はない。



「竜崎雪がここにとどまってジェノスの町を守ってくれることさえわかればそれで十分だからな。」



常磐成美や矢野霧華との繋がりも持てば優奈の帰るべき場所はより確実に守られることになるだろう。


その確認さえできれば十分だった。



「竜崎達がこの場所に関わりを持つことが確認できただけで良い。あとは…竜崎自身と長野沙弥香がどう動くつもりかを聞ければそれでいい。」



俺とは別行動をとる竜崎達がこれからどうするのか?



その質問を問いかけてみると。



「…そうだね。今はまだはっきりと言える状況じゃないものの、ひとまず清隆を追いかけようとは思ってる。どこに姿を隠したのかはまだ何も分からないけれど、彼と決着をつけない限り竜の牙の汚名を払拭することはできないからね。」



………。


…どうあっても竜の牙にこだわるつもりなのか。



「まあ、これまでの活動内容はともかくとして、本当の意味で自由を勝ち取れる部隊に成長できるのならこれからも様子を見させてもらおう。」


「ああ、もちろんそうして見せるよ。もう二度と竜の牙を悪用させはしない。本来掲げるべき自由解放の名の下に一人でも多くの魔術師を救って見せる。それが僕の使命だからね。」



…竜崎の使命か。



「何がお前をそこまで竜の牙に固執させるのかは知らないが、その名が俺にとって最後の敵であるということだけは忘れるな。」


「ああ、それも分かってるよ。だからこそ僕は竜の牙を建て直そうと思うんだ。もう二度と悲しみを繰り返さないために、そして胸を張って竜の牙の名を誇れるように、そうすることが部隊を率いる僕の役目だと思うからね。」


「部隊か…。いまはどの程度残存しているんだ?」


「ざっと100名だね。戦争を生き残った僕の仲間達は雪や沙弥香を含んでも僅か108名だけになってしまったよ。」


「かつては数万の規模を誇る軍だったとは思えない状況だな。」


「…ああ、そうだね。自分でもそう思うよ。僕が反乱軍を率いて竜の牙と全面対決を行ったときにも相当な数の死者が出たけれど、今回の戦争で竜の牙は全滅。僕の部隊も兵器の攻撃を受けて壊滅状態。はっきり言って100人が生き残れただけでも幸運だと思ってる。」



…兵器の力か。



俺も何度か経験しているが。



「あの破壊を生き残れたのは運が良かったとしかいいようがないな。」


「ああ、そうだね。だけどきみのおかげで助かったことも事実だ。だから恩返しという意味で言えばきみはすでに十分すぎるほど僕達を救ってくれたよ。だから僕達は最後まできみに協力しようと考えて、きみを追いかけてきたんだ。」


「…そうか。そう言ってもらえると少しは気持ちが楽になる。」


「ははっ、そうかい?まあ、色々とあったけど最後は楽しい思い出ができたことも事実だよ。それに今回の戦争によって沢山の仲間を失ったけれど、その代わりに竜の牙の理想に共感して仲間に加わりたいと言ってくれる仲間達も増えているからね。ある程度の人材はすぐに確保できるんじゃないかな。」



…なるほど。


…新たな竜の牙か。



「志願者はどの程度いるんだ?」


「現状で300人程度は報告を受けてるよ。多くは今回の戦争に参加した共和国軍の魔術師達なんだけど、戦わなければ守れないものがあるということを実感した者達が竜の牙に入りたいといってるらしいね。」



…ほう。


…軍の魔術師達か。



「まあ、その辺りの判断は御堂代表が考えることだろうけど、僕としては受け入れの体制を整えるつもりでいるよ。戦力を集めるのも重要だけど、僕の理想を共感してくれる仲間を集めることはもっと重要だからね。」



…そうか。



「そういう動きがあるのなら俺もあまり長くは共和国にいられないだろうな。」


「ははっ。あまりのんびりしていると御堂代表に追い付かれるだろうね。」


「ああ、そうなる前に逃げ出すことにしよう。」


「天使がこの地を去って、悪魔がこの地を支配する…か。そうなることを最初から考えていたのかい?」


「…さあ?どうだろうな。」



どの段階で考えたのか?


それは今となっては意味のない質問でしかない。



「俺は俺の道を行く。ただそれだけだ。」



竜崎達との話を終えて北条の屋敷の前から離れ始める。



「僕達も後で出立するよ。」


「今までお世話になりました~!」



竜崎は声をかけてくれて。


竜崎雪が笑顔で手を振っている。



「…まぁ、結局こうなるわけね。」



長野沙弥香は静かに俺を見送ってくれていた。



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