そんなに力を入れたら
そうして数分の時が流れた。
優奈が届けた絵を抱き締めながら幸せな気持ちを心に抱く常磐成美が涙を流し続けて。
優奈は常磐成美の姿を微笑ましく見守っている。
そんな二人のやりとりに関して何も知らない矢野霧華は、
一部始終を見届けてから何かを思い付いたかのようにゆっくりと常磐成美に手を伸ばした。
「ったく、何がどうなってるのか知らないけど、そんなに力を入れたらせっかくのプレゼントが台無しになるじゃない!」
常磐成美の手から優奈の絵を奪い取った矢野霧華は、
優奈がしていたように器用な手つきで大切に絵を折り畳んでからエプロンのポケットにしまいこんでいた小さなタオルで優奈の絵を包み込んだ。
「ほらっ!これでもう汚れないと思うからちゃんと持ってなさい。ったく、大事なモノなら涙でぐしゃぐしゃにするんじゃないわよっ!」
常磐成美のために絵を保護する。
そんな矢野霧華の口調からは不満が感じられるものの。
その反面として常磐成美を想う行動に優しさも感じられた。
「まあ、どういう事情か知らないけれど、残りの仕事は私が片付けておいてあげるから成美はちゃんとお礼を言っておきなさいよ。」
「え?あ、うん。ありがとう霧華ちゃん♪」
「だからお礼は向こうに言いなさいって言ってるのっ!ったく、ほんとに成美はバカなんだから。」
「う、うん。ごめんね霧華ちゃん。」
「もういいから、ちゃんとお礼を言いなさいっ!」
常磐成美を叱りつけながら照れ臭そうな表情で去っていく。
そうして騒がしい人物が立ち去ったことで、
優奈は少しだけ苦笑いを浮かべていた。




