anniversary
「ごめんね、成美さん。」
「い、いえ。私はいいんですけど…。でも、せっかく帰ってこれたのに…またどこかに行ってしまうんですか?」
「…うん。どうしても行かないといけない理由があるから…。だからここにはいられないの。」
自分はここにはいられない。
その理由は語らない優奈だが、
それでも優奈の気持ちを察した常磐成美は精一杯の笑顔を見せようとしていた。
「深海さんにも守りたい何かがあるんですね♪」
自分がそうだったように。
優奈にも戦わなければならない理由があると感じ取ったのだろう。
常磐成美は力一杯、優奈の体に抱きついた。
「きっと深海さんなら何だってできます♪だって私を守ってくれた人だから!だからきっと深海さんなら他の人だって守れますよ!」
「成美さん…。」
「私はちゃんと知ってます。深海さんがどれくらいすごい人で、深海さんがどれくらい優しい人か、私はちゃんと知ってますから♪」
「………。」
「だから頑張ってください!私には何もできませんけど、深海さんがいない間は私がここで頑張りますっ。だから、だから深海さんは後悔のないように精一杯頑張ってください♪」
「………。」
明るい笑顔を浮かべながら旅立ちを見送ろうとする常磐成美の温かな想いを受けとる優奈は、
今日この日のために用意していた『あるモノ』を荷物から取り出して常磐成美の手に委ねた。
「これを、差し上げます。」
「ほえ?これってなんですか?」
一見ただの布切れに見えるモノ。
だがこれは丁寧にたたみこまれた一枚の絵画であり、
命がけの日々を過ごしていた優奈が寝る間も惜しんで描きあげた一枚の『絵』だった。
「広げてみてください。」
「あ、はいっ。」
常磐成美から一歩離れて様子を見る。
そんな優奈の仕草を不思議に思いながらも受け取った絵を広げたことで。
「こ…れって…っ?」
1メートル四方の大きさの布を広げて絵の内容を確認した常磐成美の表情が一瞬だけ固まり。
あふれだす涙がゆっくりと地面に落ちていった。
「これを…これを私に渡すために…わざわざ会いに来てくれたんですか?」
描かれた想いを目にして感動の涙を流す。
優奈が想いを込めて常磐成美に託されたその絵には、
『常磐沙織と美袋翔子の姿』が描かれていた。
「お姉ちゃんと…翔子お姉ちゃん…っ。」
夢の中でしか知らない二人の姿。
精霊でも幻想でもない本物の姿が優奈の絵には描かれている。
「お姉ちゃん達…笑ってるよ…。」
沙織と翔子の笑顔を描いた優奈の絵は俺から見ても驚くほど精密で、
まるで本当の笑顔であるかのような温かな想いが込められていた。
「これが…私のお姉ちゃんなんだね…。」
常磐成美を愛して常磐成美を守り抜いた二人の姉。
そんな二人の幸せそうな笑顔を目にした常磐成美は、
止めどない涙を流しながら何度も何度も優奈に感謝の想いを伝えようとしていた。
「ありがとうございますっ。本当に…ありがとうございますっ!」
嬉し泣き。
そんなふうにしか表現する言葉がない状況で感謝しつづける常磐成美に優奈も笑顔を見せていた。
「間に合って良かったです。」
「え?間に合って…?」
「ええ、本当にギリギリでしたけど。ちゃんと間に合って良かったです。」
…ああ、そうだな。
優奈に残されていた時間はホンの数時間であり。
それは俺にとってもギリギリの時間だった。
…これで翔子と沙織の願いは叶えられた。
どうしても今日という日でなければならない理由があったからだ。
御堂や他の目的は日がずれても問題ないが、
常磐成美に関しては今日でなければならない理由があった。
「成美さん。」
優奈が描きあげた絵を大事に抱き抱える常磐成美に、
優奈は伝えるべき言葉を伝える。
「常磐先輩と翔子さんから最期の伝言を預かっています。聞いていただけますか?」
「お姉ちゃん達から…?」
「はい、そうです。そのために、その絵を届けに来たんです。」
「この絵と…関係のあることですか?」
「ええ、そうです。その絵が示す遺された想い。その言葉を聞いていただけますか?」
「は、はいっ!」
優奈が何を伝えようとして、
常磐成美に何が遺されたのか?
その答えを知るために向き合う常磐成美に。
「『お誕生日』おめでとうございます。」
優奈は祝福の言葉を伝えた。




