覚えてない
《サイド:美袋翔子》
…ぅ、ん?
目が覚めると…。
「沙織?」
すぐ側に沙織がいてくれたわ。
「翔子!?」
心配そうな瞳で私を見つめる沙織は、
目を覚ました私を見て、ほっと息を吐いてた。
ん~?
どういう状況なのかな?
ゆっくりと周囲を見渡して、自分がどこにいるのかを確認してみる。
広々とした室内。
静かな部屋では外の喧騒だけが微かに聞こえて来るわね。
ただただ静かだと思う。
室内は他に誰もいないんじゃない?って思えるくらい静まり返っていたわ。
「ここって医務室なの?」
「ええ、そうよ。優奈ちゃんと悠理ちゃんに協力してもらってここに運んだんだけど、調子はどう?どこか痛いところはない?」
心配そうな表情で問い掛けられたけれど。
特に気になることはないと思う。
だからゆっくりと体を起こして、沙織と向き合ってみたわ。
「多分、大丈夫。どこも痛くないし、健康っぽい」
「そう?だったらいいけれど、あまり無理はしないでね」
「うん」
私の無事を確認した沙織は隣で眠ってる人物に視線を向けたわ。
つられて視線を向けてみたんだけど、そこにいたのは真哉よ。
まだ眠り続けているようね。
「真哉はまだ目を覚まさないの?」
「ええ、治療は終わってるから、意識が戻るのを待つだけなんだけどね」
それでもまだ起きないみたい。
まあ、あれだけボコボコにしたんだから仕方ないかな。
…って、あれ?
わりと瀕死の重傷じゃなかったっけ?
手加減なしで攻撃しちゃったのに、もう治療が終わってるの?
真哉の怪我が完治しているのを確かめてから、
改めて沙織に問い掛けてみることにしたわ。
「結構、重傷だった気がするんだけど、沙織が治したの?」
「え…っ?」
私の発言を聞いた沙織に不思議そうな目を向けられてしまう。
ん~?
何か変なこと言ったかな?
「もしかして、覚えてないの?」
戸惑ってしまった私に、沙織も質問を返してきたわ。
「何を?」
首を傾げて考えてみるけど、
思い出せることなんて何もないのよ。
…というか。
試合が終わったあとのことなんて、
意識がなかったから何も知らないんだけどね。
「沙織が治療したわけじゃないの?」
「真哉の治療をしたのは彼よ。」
「えっ!?」
「もちろん、翔子の魔力を回復したのもね」
「ええええぇぇぇぇぇぇ!?」
沙織の言葉を聞いて記憶を蘇らせようと試みたけど、
全くと言って良いほど何も思い出せなかったわ。
ただ、微かに総魔の声を聞いたような気はするんだけど…でも覚えてないのよ。
「覚えていないのね?」
「うん、全然。覚えてないんだけど、何があったの?」
意識を失ってる間に何があったのか聞いてみると、
沙織は私が倒れてからのことをゆっくりと説明してくれたわ。




