米倉一族の誇り
「………。」
4体の精霊を召喚して対峙させたことで心を凍てつかせる。
1対1で戦っても勝ち目の見えない状況で4体もの精霊までも同時に相手にしなければならないという逆境に直面したことで、
御堂は抑えきれない恐怖を表情に示しながらはっきりと分かるほど体を震わせていた。
「これが…これが本物の精霊…なのか?」
どこをどう攻めれば良いのかも分からずに硬直してしまった御堂が足をすくめている。
その最中に、試合を観戦していた宗一郎が駆け寄ってきた。
「み、美由紀ぃぃぃ!!」
娘の姿を目にしたことで居ても立っても居られなかったのだろう。
「まさか!まさか美由紀まで天城君に力を捧げたのかっ!?」
「…あ、あのっ!」
「いや、待て。俺が説明する。」
精霊に関しては何も知らなかった宗一郎に優奈が話しかけようとしていたのだが、
その前に制止してから宗一郎に話しかけることにした。
「翔子達と同じように美由紀も俺に協力を誓ってくれた。お前を…宗一郎を治療して生存させることを条件としてだがな。」
「それはつまり、美由紀は…美由紀は俺に遺せない想いを…きみに預けたのだな?」
「ああ、そうだ。だからこそ俺はお前を…そして共和国を守り抜く。それが美由紀との最後の約束だからだ。」
「そうか…。そうだったのか…っ!」
自らの非力さを嘆く父に想いを残せなかった美由紀の苦肉の策。
その代償として死してもなお精霊として戦場に立ち続ける義務を背負った娘の姿を見て、
宗一郎は微笑みながらも涙を流した。
「お前は…バカな娘だ…っ。それほどの恩を…俺はどうやって返せば良いのだ…っ?」
感謝してもしきれないと考えているのだろう。
多大なる愛を実感して涙を流す宗一郎は、
亡き妻の姿と照らし合わせるかのように精霊になった美由紀の姿を見つめていた。
「お前はやはり、母さんに似たのだな…。」
記憶の中の想い出と、目の前にいる娘の姿を重ね合わせているのが感じられる。
「綺麗になったな…美由紀。」
死しても損なわれることがない美しさを誇る娘に対して素直な気持ちを伝えていた。
「すまない。そして、ありがとう。俺は…最高の娘を持った…幸せな男だ…。」
真っ赤なドレスに身を包み。
漆黒の杖を握りしめて。
純白の翼をその背に広げる娘の姿をしっかりと目に焼き付けながら。
宗一郎は静かに後退していく。
「お前が望むのなら、俺はどんな結末も受け入れよう。」
精霊になった娘を心の中に焼き付けることで自らの役目を再認識したのだろう。
宗一郎は娘に誓いをたててから涙をぬぐって想いを叫んだ。
「そこがお前の居場所なら、地の果てまでも天城君を守り抜け!それが、それが米倉一族の誇りだ!!」
親子二代にわたる恩を返すために。
宗一郎は精霊になった娘を静かに見守る覚悟を決めたようだ。
「俺がお前を見届ける!」
娘の想いを見届けるために試合場から離れていく。
その数分のやり取りによって御堂も覚悟を決めたのだろう。
恐怖を抑え込んで、再び剣を構えてみせた。




