どちらが挑戦者なのか
「さあ、始めようか。」
あの日と同じように開始線に立ち。
あの日と同じように御堂と向かい合う。
あの頃と比べると、お互いに実力が異なっているものの。
抱き続けてきた想いは何も変わらないはずだ。
「俺はお前を越えるために戦いを挑み。お前は俺を退けるために戦いに挑む。その立場は今でも変わらない。」
「…きみにとってはそうかもしれないけどね。僕にとってはそうじゃないんだよ。」
………。
「きみは僕に戦いを挑むと言うけれど、あの日からずっと、初めて戦ったあの日からずっと、戦いを挑んでいたのは僕のほうなんだ。初めてきみと向き合ったあの日から、僕はきみに敗北を認めていたんだよ。」
…どちらが挑戦者なのか。
御堂は学園の頂点に君臨していながらも、
初めて対戦する俺を相手に敗北を認めていたと告げてきた。
そして俺に対する恐怖を抑え込むかのように気合いを込めてルーンを強く握りしめている。
「挑戦者はきみじゃなくて僕だ。そのことを自覚させられたあの日のことを僕は今でも忘れないっ!」
…なるほどな。
当時の俺は単に強い相手との戦いを望んでいただけなのだが、
御堂としては敗北を覚悟の上での戦いだったらしい。
「お前らしい考え方だな。」
「それほど、きみはとても遠い存在なんだよ。」
「…だったらどうする?」
「どうもこうもないよ。言っただろ?僕はきみに挑む。そしてきみを制して見せるってね。」
…なるほど。
…良い言葉だ。
「その想いを実現して見せろ。」
「ああ、もちろんそのつもりだよ。」
震える体を必死に抑え込んで決戦に挑む覚悟を見せる御堂の覚悟を見届けるために、
審判を務める優奈が静かに語りかけてきた。
「それでは、始めますね。」
薫と美春が防御結界を展開して優奈も結界の周囲にホワイト・アウトを発生させることで場外への被害を最小限に押さえようと努力しているのだが、
最も近い場所で俺と御堂を見守るのが優奈の役目になる。
「これが、最後です。」
静かに右手を振りかざす。
ここまでくればもう泣いても笑っても後戻りはできない。
一度始めてしまえば最後に残る結末は勝利と敗北という結果だけだった。
「良いですか?」
最終確認をとる優奈だが、
いまさら断る理由はない。
「いつでもいい。」
「僕もいいよ。」
優奈の判断に全てを任せて、
これから始まる試合に全ての想いを集中させていく。
「それでは…。」
互いの緊張感が高まっていくなかで優奈が右手を降り下ろす。
「…試合、始めっ!」
精一杯の声で試合開始を宣言した優奈の声が聞こえた瞬間に。
全力で飛び出した俺と御堂の神剣が試合場の中央で激突しあった。




