普通の女の子
《サイド:深海優奈》
ふう…。
医務室にたどり着きました。
そしてお仕事中だった先生に事情を説明した私達は、
医務室のベッドを借りて翔子先輩と北条先輩を休ませることにしました。
翔子先輩は眠っているだけらしいのですが、
北条先輩は気を失っている状態らしいです。
私には違いが分かりません。
ですがどちらもまだ目を覚まさないということだけは分かります。
翔子先輩と北条先輩を隣同士のベッドに寝かせた私達はひとまずほっと安堵の息を吐きました。
「しばらくは様子を見るしかないわね」
沙織先輩の言葉を聞いて、私と悠理ちゃんは頷きます。
無理に起こすわけにもいきませんので、そっとしておこうと思うからです。
なので。
しばらくの間、翔子先輩の寝顔を眺めてみたのですが、
こうして見ていると不思議な気がします。
とてもあれだけの激しい試合をしたあとだとは思えないくらい、
可愛らしい寝顔で静かに寝息を立てているからです。
私には絶対に真似のできないと思う大魔術を使っていたのに、
こうして眠っている姿はごく普通の女の子なんです。
なんだかとても…羨ましいです。
どうしてかはわかりませんが、
何故かそんなふうに思ってしまいました。
「翔子先輩、起きないね」
「そうだね~」
悠理ちゃんと二人で翔子先輩の様子を見ているのですが、
そんな私達に沙織先輩が話しかけてくれました。
「手伝ってくれてありがとう。あとは私が見ておくから、優奈ちゃんと悠理ちゃんはそろそろ朝食に行ってきたら?」
あ~。
今更ですが、朝食を食べていないことを思い出しました。
食堂に入る前に会場に移動して、流れ的にここまで来てしまったんです。
「どうする?悠理ちゃん。食堂に行く?」
「だね。ここにいても何も出来ないし。とりあえず、ご飯食べに行こっか?」
「うん」
短い相談を終えた私達は沙織先輩に挨拶をしてから移動することにしました。
「それでは食堂に行ってきます」
「ええ」
「またあとで様子を見に来てもいいですか?」
「う~ん、どうかしらね?」
沙織先輩は翔子先輩と北条先輩に視線を向けてから、
もう一度私達に振り返りました。
「多分だけど、目覚めるのにそれほど時間がかからないと思うから、二人が来る頃にはもういないかもしれないわね」
「そうなんですか?」
沙織先輩の言葉を聞いて、
眠っている先輩達に視線を向けてみます。
翔子先輩も北条先輩も特に怪我はしていません。
どちらも眠っている状況なので、
目を覚ますことさえできればここにいる必要はなさそうです。
「だったら戻ってきても仕方がないのかな?」
「先のことは分からないけれど。お昼頃には食堂で会えると思うから、心配しなくても大丈夫よ」
「あ、はい」
納得して頷きます。
そして悠理ちゃんと二人で医務室を出ることにしました。
「じゃあ、また後で!」
元気良く微笑む悠理ちゃんに続いて。
「お先に失礼します」
私は軽く頭を下げてから沙織先輩に背中を向けました。
「いってらっしゃい」
笑顔で見送ってくれる沙織先輩にもう一度だけ微笑みを返してから、
私と悠理ちゃんは医務室を出て食堂に向かいました。




