負けてあげませんよ♪
…ひとまず準備は整ったわけだが。
どうやらこのまますぐに試合を始めるというわけにはいかないようだ。
「すまないが、ちょっといいか?」
竜崎が審判として試合場に歩み寄る途中で、
今まで様子を見ていた黒柳が話しかけようとしていた。
「やる気になってもらうのは大いに結構なのだが、その前に一つだけ問題がある。」
決して見過ごすことのできない事態。
先程の試合によって魔石が失われてしまったことで試合場を守る防御結界を展開できないという事実を指摘しようとしているようなのだが、
すでに問題を把握している竜崎雪は笑顔で黒柳の発言を遮った。
「大丈夫です。今回の試合に関しては私が防御結界を展開して試合場を封鎖しますから。」
黒柳達に代わって自分が結界を展開すると宣言しているのだが。
魔石の力に頼らずに結界を維持できるかどうかという部分において、
黒柳は疑問を感じている様子だった。
「…ふむ。一人で出来るものなのか?」
「ええ。私の意地と誇りにかけて、全ての魔術を遮断して見せます。」
出来るか出来ないかではなく、結果を出すこと。
その意志こそが御堂への挑戦であり。
自らの限界を乗り越えるための一歩だと考えているのだろう。
「…ふむ。ならばきみを信じようか。」
失敗は大災害に繋がりかねないのだが、
それでも黒柳は絶対に場外には影響を及ぼさないと宣言してみせた竜崎雪の決意を認めることにしたようだ。
「どのみち俺達ではどうしようもないからな。きみが責任を持つというのであればこちらとしても異論はない。」
精霊に関しては偽りだと気づいている黒柳だが、
これまでの実績を考慮して竜崎雪の意向を受け入れることにしたらしい。
「今回はきみに任せる。」
防御結界の展開を竜崎雪に委ねた黒柳は、
西園寺つばめと藤沢瑠美を引き連れながら試合場を離れていった。
「…ありがとうございます。」
わずか2試合で撤収した黒柳達に代わって、
最後の試合を託された竜崎雪が全ての魔力を注ぎ込んで試合場を防御結界で包み込んでいく。
「決して失敗はしません。どんな攻撃も抑え込んで見せます。」
御堂に屈しないために。
そして長野敦也を支えられる存在であるために。
自らの想いを結界という形で表現しようとしていた。
「全ての力を抑え込んで見せます!!」
「…ほ、本当に全て抑え込まれてしまいそうだね。」
気迫を込めて宣言する竜崎雪の真剣な眼差しを見たことで、
周囲に展開された結界を突き抜けられないと感じたのだろう。
御堂は少し落ち込んだ表情で小さくため息は吐いていた。
「まだまだ上がいるんだね。」
…ああ、そうだな。
竜崎と長野沙弥香だけではない。
竜崎雪や冬月彩花など。
一瞬の油断が死を招くほどの実力者が周囲には沢山いる。
その事実に気付いたことで、
まだまだ頂点を目指せない自分の弱さを認めてから竜崎雪を乗り越えることも宣言してみせた。
「だけどいつか越えてみせるよ。今は無理ではいつか必ず…きみも越えてみせる。」
「いえいえ、そんな簡単には負けてあげませんよ♪」
多くの目標を心に定めながら前へ進み続ける覚悟を示す御堂だったが。
対する竜崎雪は演技ではない笑顔で堂々と否定していた。




