経験してみますか?
「ここからは手加減なしです!」
翔子の姿をもつ精霊をあたかも自分が操っているかのように振る舞う。
「まずはトール・ハンマー!!!」
試合場を舞うように飛行する翔子の背中を見守りながら魔術名を宣言した瞬間に発動する魔術。
翔子のルーンから放たれたのは宗一郎のイクシオンに匹敵するほどの巨大な雷なのだが、
目的としている効果は敵を痺れさせることではなくて重力による拘束になる。
「ぐっ!?うああああっ!!!!」
試合場の中心に落ちる雷。
雷の矢が着弾した地点を中心として一気に拡散した電流が御堂の足を捕らえた。
そして御堂の体を痺れさせながら通常の十倍の重力を与えて試合場へと沈めていく。
「くっ…!!これが…翔子の…っ?」
魔術そのものは見たことがあっても経験するのは初めてなのだろう。
通常では有り得ない十倍の重力を受けて試合場に這いつくばる御堂だが、
翔子の力はまだまだこの程度ではない。
「これが試合とはいえ戦闘中に動きを止めることがどんなに危険なことかなんて…忘れたわけではありませんよね?」
重力による圧迫を受けているせいで立ち上がることさえできない様子の御堂。
この状況は竜崎雪にとって狙い打つ価値さえない的となる。
「言ったはずですよ?手加減なしです…と。」
一撃目の魔術で御堂の動きを制限して、
次の魔術で御堂自身に狙いを定める。
「禁呪アルテマ。その力をもう一度経験してみますか?」
「………。」
ただただ静かに問いかける竜崎雪の上空で狙いを定める翔子の両手にはすでに光輝く矢が射撃可能な状態になっている。
身動きのとれない御堂にとって最も危険な魔術が試合場の上空から襲いかかろうとしていた。
「急がないと大変なことになりますよ?」
「く…っ。」
アルテマの直撃を受ければさすがの御堂もただではすまないだろう。
「さあ、行きますよ。」
「ま、間に合わない…っ!?」
体に襲いかかる重力から逃げられず。
頭上のアルテマに対して指先ひとつ向けられない。
そんな御堂の窮地に天使の矢が降り注ぐ。
「…アルテマ…。」
竜崎雪の言葉をきっかけとして襲いかかる究極の魔術アルテマ。
翔子の両手から放たれた光の矢は、寸分の狂いもなく御堂の体に被弾した。




