俺の愛した女
試合場に現れたのは暖かな陽の光を放つ精霊だ。
それは沙織と同様にジェノス魔術学園の制服を身にまとい。
柔らかな栗色の髪を風にたなびかせる最強の魔術師。
俺の魔術をさらに上回り。
兵器に匹敵する破壊力を単独で発動できる人物。
その努力の才能は御堂でさえも及ばないだろう。
…これが俺の愛した女だ。
純白の翼を羽ばたかせながら地上に舞い降りる天使。
その体から生まれる光はどこまでも暖かくてどこまでも優しい。
…御堂、お前の目にはどう映る?
精霊としての美しさは沙織も翔子もどちらも遜色はないだろう。
それぞれが持つ輝きは異なるとしても、
どちらも光を放つ存在であることに変わりはないからだ。
『星』と『太陽』
そのどちらも光の存在であることに変わりはないのだが、
夜空を照らす星の煌きと世界を照らし出す太陽の輝きは決して同質ではない。
…これが、この光こそが翔子の力だ。
俺の心の闇を強く照らし出す陽の光。
美袋翔子こそが俺の理想と言える。
…お前にとって沙織がそうであるように。
俺にも断ち切れない想いがある。
だからこそ思う。
…御堂は決して弱くはない。
弱さをさらけ出す勇気が御堂にはあるからだ。
だが俺にはその勇気がなかった。
…他人に心の弱さを見せる勇気が俺にはないからな。
弱さを見せてしまうことで哀れみの視線を受けるのが怖いなどというつもりはないが、
それでも仲間達に余計な負担を感じさせたくはないとは考えてしまう。
…だから俺は。
御堂のようには迷えない。
それが俺の本心だった。
「…総魔さん。」
翔子の精霊を召喚したことで優奈が話しかけてきた。
「総魔さんなら…総魔さんならどうするんですか?」
悲しみに染まる瞳で俺を見つめる優奈は俺にも選択肢を問いかけてくる。
「もしも翔子先輩の姿を持つ精霊が現れたら…。」
もしも御堂と同じ状況になったとしたら?
…その答えは考えるまでもない。
「迷わず翔子の精霊を破壊する。そしてもう二度と悪用されることがないように術者もろとも消し去る。それが俺の答えだ。」
「…ですよね。きっと…きっと総魔さんならそう答えると思っていました。ですが…。ですが悲しいとは思いませんか?」
………。
御堂と同じ悲しみを俺も背負うだろうと考える優奈だが、
俺の考えは御堂と同じではないと思っている。
「翔子の姿を消失させることに後悔はない。翔子が俺を殺すはずがなく、俺の中の翔子への想いが消え去ることもないからな。」
翔子の遺した想いが俺の中に在り。
俺の心が歪まない限り。
翔子への愛が消えることはない。
「周りがどう思うかに関係なく、幻想の精霊に怯む理由はどこにもない。」
そもそも翔子の体を切り捨てたからといって翔子が俺を恨むことはありえないはずだ。
…むしろ。
「何より翔子なら自分の姿を悪用されたことに怒りを感じて術者を呪い殺すくらいの気概があるだろうからな。」
「あ、あは…はは…っ。そ、そうですよね…。それはありそうですね。」
俺の指摘を受けて苦笑いを浮かべた優奈は、
これ以上の質問を無意味だと考えておとなしく身を引いてくれた。
「確かに翔子先輩なら総魔さんに危害を加えようとする相手を見過ごすはずがありませんよね。」
…ああ。
「すみません。余計な質問でした。」
「いや、良いんだ。気にするな」
「…はい。」
俺を心配するよりも翔子を信じたほうが良いと判断してくれたのだろう。
それ以上何も言わずに再び秘宝に意識を集中し始めた。




