同調
悠理ちゃんと二人で抱えていた翔子先輩を寝かせました。
そして翔子先輩の胸の上に手を置いてから、一生懸命祈ります。
魔力が尽きた翔子先輩に魔力を送り込もうと頑張ってみたんです。
ですが…。
思うようにはいきません。
魔力を送り込むことが出来ませんでした。
まるで水と油のように拒絶されてしまうんです。
どれだけ魔力を注ぎ込んでみても、
その全てがはじかれてしまいました。
どうすればいいのでしょうか?
私の魔力ではダメなのでしょうか?
よくわかりません。
それでも…。
「頑張れ、優奈!!」
応援してくれる悠理ちゃんに頷いてから、私はもう一度試してみることにしました。
翔子先輩!!
目を覚ましてください!!
手に魔力を集めて、翔子先輩に送り込んでみます。
ですが…。
どれだけ願っても上手く行かないんです。
「どうして…っ」
上手くできない自分が悔しくて、
落ち込んで、泣き出しそうになってしまいました。
「優奈…。」
何もできない私を見て、
悠理ちゃんも悲しそうな表情をしています。
「悠理ちゃん…。」
「うぅ~。何か他に方法が…」
悠理ちゃんが別の方法を考えようとしたその瞬間に…。
「理論が安定していないな」
私達の背後から声が聞こえてきたんです。
その声は…
とても聞きたかった人の声でした。
「総魔さん!」
慌てて振り返る私の視線の先に、総魔さんがいてくれました。
「単純に魔力を送り込めば良いというものではない。」
ゆっくりと私の側に歩み寄てくれた総魔さんは、
私の手をとってから翔子先輩の胸の上にそっとかざしました。
そして、私に教えてくれたんです。
「魔力は人ぞれぞれに異なるからな。翔子の魔力と『同調』させることを意識しなければ成功しない」
魔力の同調?
その意味は分かりませんが、
私の手に重なる総魔さんの手の温もりがその方法を教えてくれました。
理論を理解するよりも先に、私の手が反応したんです。
総魔さんの導きのおかげで、
私の魔力が翔子先輩に流れていくのがはっきりと実感できたんです。
「分かり…ます」
初めての感覚でしたが、
他の誰かの魔力と同調するということの意味が理解出来たんです。
「すごいです…。」
私の体から魔力が失われていくのと同時に、
翔子先輩に魔力が戻っていくのがちゃんと感じ取れました。
これが、魔力の供給なんですね。
総魔さんのおかげで、
新たな技術を身につけることが出来ました。
「う…んっ…?」
意識を取り戻した翔子先輩が、ゆっくりとまぶたを開きます。
「「翔子先輩!!」」
重なる私と悠理ちゃんの声。
その声に気づいた沙織先輩は、
翔子先輩の無事を確認して嬉しそうに微笑んでくれていました。
「ん?あれ…私…?」
起き上がろうとする翔子先輩を私と悠理ちゃんで支えます。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ。たぶん…」
まだ意識がはっきりとしないようですが、
ひとまず大丈夫のようですね。
翔子先輩の無事が確認できたことで、
総魔さんはゆっくりと沙織先輩の側に歩み寄りました。
「治療に苦戦しているようだな」
「ええ。思った以上に怪我が酷くて…」
落ち込んだ表情を見せる沙織先輩ですが、
総魔さんは特に気にした様子もないまま、
沙織先輩の隣に並んでから北条先輩に手をかざして魔術を発動させました。
「リ・バース」
総魔さんの手が光り輝いたと思った次の瞬間に、
北条先輩の体から全ての傷痕が消えていました。
「…凄い…」
一瞬で治療を終えた総魔さんに尊敬の眼差しを向ける沙織先輩ですが、
あっさりと治療を終えた総魔さんは何も言わないまま私達に背中を向けて立ち去ろうとしていました。
ですがその前に…
「…総魔…」
翔子先輩が呼び掛けました。
「ありがとう…」
まだ意識が朦朧としている様子の翔子先輩ですが、
お礼の言葉を聞いた総魔さんは一旦立ち止まってから背中越しに応えました。
「良く頑張ったな、翔子」
その一言だけを残して歩き出してしまったんです。
それでも翔子先輩は嬉しそうでした。
幸せそうに微笑みながら、
再び意識を失ってしまったんです。
「「翔子先輩!?」」
慌てる私達ですが、
沙織先輩は翔子先輩の顔を覗き込んでから微笑んでくれました。
「大丈夫よ。寝てるだけみたい。きっと疲れたんでしょうね」
疲れ…?
私には分かりませんが、沙織先輩がそう言うのならきっとそうなのだと思います。
ほっと一息吐く私と悠理ちゃん。
気が付けばすでに総魔さんの姿は見当たりませんでした。
眠りにつく翔子先輩を放っておくことはできません。
北条先輩もまだ、目覚める様子はなさそうです。
「とりあえず移動しましょうか」
沙織先輩と私で北条先輩を支えて、
悠理ちゃんは一人で翔子先輩を背負って、
検定会場を離れることにしました。




