今の貴方を
「貴方が何をどう思うかのは自由だと思います。だからこのまま自暴自棄になって、あらゆる責任に背中を向けるのも自由です。」
「………。」
「私もそうですが、他の誰にも貴方の人生を強制することはできません。だから貴方がこれからどうしようと構いません。」
「………。」
何も答えないままの御堂だが、
それでも雪は話し続けていく。
「ですが、もう少しだけ私の話を聞いていただけませんか?」
説得することに意味があるのかどうか?
すでにそこから疑問を感じつつある様子だが、
それでも御堂のために話し合うことを選んでくれていた。
「私は貴方に試練を与えるためにここにいます。その理由は後ほど話すとして、今はなぜ私が常磐沙織さんを召喚したのかをお話しますね。」
なぜ御堂と常盤沙織を戦わせたのか?
その目的はすでに明らかになっている。
御堂の甘さを払拭するためという核心部分は明らかになっているからだ。
だがそれでもまだ現実を受け止めきれない御堂のために竜崎雪は語り続けた。
「今回の試練は御堂さんの心を試して御堂さんの甘さを払拭することが目的でした。そういう意味で言えば御堂さんはすでに合格です。常盤沙織さんの姿を持つ精霊を消し去ることに成功した貴方は私の期待に十分応えてくれました。」
実際には俺の期待と言うべきだが、
今はまだ御堂の前には出られない俺の代わりに計画を進行してくれている竜崎雪の期待通りに試合が進んでいるのは間違いない。
だがそれでもまだその先へ進むための気力が御堂には足りていなかった。
「貴方は十分な結果を出しました。ですが今の貴方を見ている限り、試練を乗り越えることに成功したようには思えません。」
「…だろうね。僕もそう思うよ…。」
御堂自身でさえ意義を見いだせない結果。
そこに意義を与えるために話を続けていく。
「このあともまだ続いていく試練に挑み続けるためには貴方の意志が必要です。貴方が自らの意志で歩み続けなければどんな試練も無意味ですから。」
「だとしても、僕にはもう…この試練を続ける意味がわからないんだ。」
沙織を傷つけたという事実によって心を閉ざしかけているのだろう。
徐々に信念を失いかけている御堂を説得するために。
竜崎雪は御堂が進むべき道を示そうとしていた。
「本当に何もかも見失っているのなら、もう一度自分の心と向き合ってみてはどうですか?」
「自分の心?」
「ええ、そうです。貴方はどう思いますか?貴方が崇拝する彼ならどうすると思いますか?」
「っ!?」
竜崎雪の問いかけによって激しい動揺をあらわにする。
そんな御堂の様子を目にした竜崎雪はさらに言葉を続けていった。
「貴方が目指す彼は今の貴方のように現実から目を逸らしてしまうでしょうか?今の貴方のように目的を見失って立ち止まってしまうでしょうか?」
「そ、それは…っ。」
「貴方はまた足を止めてしまうのですか?絶望に立ち向かう彼の背中を見送ったまま、ここで歩みを止めてしまうのですか?」
「ち、違…っ。僕は…っ。僕は…っ!」
「何も違いません。今の貴方は『あの時』と同じ過ちを繰り返そうとしているのですから。」
「………。」
常盤沙織が死亡して。
アストリアの森の奥で絶望に打ちひしがれて。
歩みを止めてしまった過去の出来事を追求する竜崎雪の指摘によって、
御堂はようやく答えに気づいたようだな。
「僕は…僕はたどり着いていたのかな…?」
今まで気づかなかったのはその事実を忘れていたからだ。
目の前の現実を受け止めきれずに悲しみに沈み込んでいたから。
だから御堂は進むべき道を見失ってしまっていた。
…だが。
御堂は見失っていた道をようやく思い出した。
「僕は…前に進んでいたんだね…。」
沙織への愛を失わずに前へ進み続ける意志が御堂の体を動かす。
「僕は…無意識のうちに総魔を追いかけていたんだ…。」
「ええ、そうですよ。」
答えにたどり着いた御堂を見たことで竜崎雪は再び笑顔を見せた。




