強がる必要はない
「私にできることでしたら、いつでも言ってください♪」
「あ、ああ。ありがとう。またお願いするよ。」
意地や誇りよりも守るべきものがある。
そのことを改めて認識した御堂は姿勢を正して宗一郎と向き合った。
「これで良いんですよね?」
「うむ。それでいい。」
自分一人で全てを背負うのではなくて仲間の手を借りること。
その重要性を理解した御堂を見て、
宗一郎は笑顔で頷いていた。
「無理に強がる必要はないのだ。」
共和国の代表として人の上に立つ立場だとしても、
全ての責任をたった一人で背負う必要はない。
それを伝えるための試練は無事に終了して、
御堂はまたひとつ代表としての道を前進した。
「とは言え、これはまだ前半にすぎないからな。これからまだ5つの試合を乗り越えなければならない。」
「…まだまだ先は長いですね。」
「ああ、そうだな。だが最後の試験にたどり着いた時に、きみはきみの望む舞台に立てるはずだ。」
「僕が望む舞台…ですか?」
「ははっ。それはあとの楽しみに残しておくとして、だ。まずは次の試合を始めようか。」
すでに近藤悠輝は琴平重郎と竜崎雪によって場外に運び出されているのだが、
近藤悠輝が意識を取り戻さないのは竜崎雪の配慮だろうか?
あるいは竜崎慶太の配慮なのかも知れないが、
治療を終えても目覚めない近藤悠輝は黒柳大悟が眠る会場の角へと運ばれていった。
「まあ、色々とあったが大悟も近藤君もすぐに目を覚ますだろう。その間に後半戦を始めてしまおう。」
残る人材は宗一郎と竜崎達3人だけだ。
ただ、その中でも長野沙弥香は弟との試合によってすでに全ての魔力を使い果たしているからな。
戦力としては考慮できないだろう。
「残り5戦のうち、次の試合と最後の試合に関しては俺も把握しているのだが、その間に行う3つの試合に関しては『別の人物』に委託することになる。」
「委託…ですか?」
「まあ、その辺りの事情も次の試合が終われば明らかになることだ。今は焦って考える必要はないだろう。」
「は、はぁ…。」
あまりにも情報が少なすぎるせいか気の抜けた返事を返す御堂だが、
次の宗一郎の発言によって再び御堂にとっての危機が迫ることになる。
「さて、次の対戦相手だが…。6試合目に出るのは俺自身だ。」
「え…っ!?ええええええぇぇぇぇっ!?よ、米倉さんが直接出るんですか!?」
次の相手は竜崎達かもしれないと予測していたのだろう。
御堂の考えをあっさりと覆す宗一郎は、
微笑みを浮かべながら宣言した。
「俺との戦いできみが新たな道を示すこと。それが次の試練になる。」
今回の試験において早くも参戦することになる宗一郎。
その試合の意味にも悩みを抱える御堂だが、
今回も宗一郎は何も教えないつもりのようだな。
「戦いの意味はきみ自身が考えるのだ。」
あくまでも試合の目的は御堂の判断に委ねられる。
だからこそ質問は無意味だと理解した御堂は大人しく開始戦に向かっていった。
「…まさかこんな日が来るなんて。」
どうやら宗一郎と戦うことだけは本当に予想外だったようだな。
戸惑いをあらわにしながら開始線に立って宗一郎と向き合った。
「僕と米倉さんが…試合?」
全く想像さえ及ばなかった展開にただただ困惑する御堂だが、
宗一郎は気持ちを切り替えて真剣な表情で御堂に立ちはだかっている。
「戦う以上は手加減するつもりはない。だからきみも全力で戦いたまえ。」
互いに全力で戦うこと。
その前提を宣言してから竜崎慶太に視線を向けた。
「…あとは頼むぞ。」
「ええ、任せてください。」
試合場に歩み寄った竜崎が宗一郎の代わりに審判役を引き受けてくれた。
「それでは始めます!」
右手を掲げて開始の合図を示す。
そして降り下ろされる右手が真下へ向くと同時に。
「試合始めっ!!」
試合開始が宣言された。




