最強の魔術
まだお昼を過ぎたばかりということもあって食堂の中は大勢の生徒達で賑わっているようだ。
見える範囲内で言えば空いている席はそれほどなく、
食事を終えても談笑している生徒達によってほとんどの席が埋まっている。
そのせいで座る場所を探すのにも一苦労しそうな状況だ。
さすがに2万人を超える生徒がいるとこうなるのも仕方がないのかもしれない。
食堂の規模は1000人を軽く収容できそうなほど巨大な施設だが、
それでも全体の1/20に過ぎないからな。
人の入れ替わりが激しく。
席の奪い合いもあるので、
のんびりと食事をすることが難しい状態と言える。
それでもどうせ解説を強制されるならゆっくりできる場所が良いと思っていたのだが。
肝心の翔子はすでに昼食に気持ちが移り変わっているようだ。
「今日は何にしようかな~?」
ご機嫌な翔子に視線を向けてみると、
楽しそうに選んでいるのはどれも菓子パンばかりだった。
「いつもそうなのか?」
菓子パンばかり食べているのかを尋ねてみると、
翔子は笑顔で元気よく頷いた。
「ええ、そうよ♪まあ…お昼は、だけどね。さすがに一日中、パンばっかり食べてるわけじゃないわよ」
「そうか」
まあ、たいして興味もないからな。
翔子の食生活は気にしないことにする。
ひとまず俺は一番安い定食を選んでからたまたま近くで空いた席に座ることにしたのだが、
すかさず翔子が隣の席に腰を下ろしてきた。
「それで?総魔は何が好きなの?」
………。
食事の話題はまだ終わっていなかったらしい。
俺としてはすでに終わった話だと思っていたのだが、
翔子の中ではまだ続いていたようだ。
「どうだろうな。特にはない。だがまあ、強いて言うなら魚か。特別好きというわけではないが、特に嫌いなものもないからな」
「ふーん。総魔はお魚が好きなんだ。私もお刺身は好き~」
そう言うわりには肉も魚も関係のない菓子パンを両手に持って幸せそうに食べている翔子の好みがよくわからない。
とは言え、機嫌良く食事している所を邪魔する気はないからな。
翔子のことは放置して定食に向き合うことにした。
…それから30分後…。
食事の間に翔子のくだらない話に延々と付き合わされたものの。
特に何事もなく食事を終えられたことで、
今は暖かいお茶を飲みながらのんびりとした時間を過ごしている。
「ねえ。そろそろ聞いてもいい?」
ある程度落ち着くまでは話題を避けるように努力していたのだろう。
その程度の配慮も出来るらしい翔子の努力は素直に認めるものの。
ついに始まった問い掛けに対して今回もまた説明を始めることになった。
「一応、確認するが、さっきの試合に関してだな?」
「うん。そうよ」
「最初に言っておくが、今回も特別な事をしたわけじゃない。ただ圧縮魔術の理論を応用して複数の魔術を同時に発動しただけだ」
最初に結果を前置きしてから、
翔子にも理解出来るように話してみる。
「今回の試合でしたことだが…」
一連の手順を言えばまずは霧と翼を展開する事から始まる。
今回は圧縮魔術で同時に発動したが、
今まで通りに普通に発動しても問題はない。
ただ単純に効率がいいという理由で圧縮魔術を使用したにすぎないからな。
発動の方法そのものを気にする必要はないだろう。
重要なのは結果に至るまでの過程だ。
「次の工程だが…」
時間はかかるが幾つかの魔術を圧縮しながら翼に保管していく作業を行う。
と、同時に対戦相手の魔術も吸収して翼に保管していく。
そしてある程度の魔術の蓄積が出来たら後は発動させるだけだ。
今回は5分と決めた制限時間があったことと、
対戦相手が途中で攻撃を断念したことで十分な数を揃えられなかったのだが。
時間と状況次第ではまだまだ数多くの魔術を蓄積させることができるはずだ。
時間をかければかけるほどより多くの魔術を翼に蓄積出来るからな。
どこまで蓄積できるかはやってみなければわからないが、
今回は18の魔術を組み合わせて発動させた。
目標は一カ所。
攻撃は一瞬。
その一撃に全ての魔術が集約する。
圧縮された18の魔術の高速同時展開だからな。
回避は不可能だろう。
破壊力も先程の試合で実証されている。
これが試合場という守られた範囲でなければ確実に相手の命を奪うであろう攻撃だ。
俺が望む翼の最終形態と言える絶大な力。
それが究極の魔術『アルテマ』だ。
「なるほどね~。霧と翼の両方が揃って使える最強の魔術ってわけね」
翔子も先程の試合での出来事が理解出来たようだな。
圧縮魔術を応用する事によって本当の意味で翼を完成させたことを、だ。
ただ魔術を使えるだけではなく。
ただ高速化できるだけでもない。
あらゆる魔術を取り込んで一瞬で発動できる魔術倉庫。
それこそがまさしく天使の翼にふさわしい特性だ。
そしてその能力は翔子にとっても驚異的な力だったようだな。




