疑心暗鬼
「…ふむ。さっそく始めさせてもらおうか。」
琴平重郎の意見を尊重して宗一郎が動き出す。
そして御堂と琴平重郎の視線が混じりあう微かな緊張を感じながらも右手を振り上げて4度目の合図を出した。
「試合、始めっ!!!」
「…それでは始めましょうか。」
落ち着いた口調で静かに立つ琴平重郎は、
特に戦う素振りも見せないまま冷静に御堂と向き合っている。
「…?」
あまりにも不自然な態度を見て疑問を感じる様子の御堂だが、
また何らかの罠があると考えたのかすぐに攻撃を仕掛けることはなかった。
「「………。」」
お互いに何も言わずに生まれる沈黙。
「「………。」」
どちらも動き出さず。
どちらも言葉を発しない。
そんな状況の中で琴平重郎は冷静に御堂の動きを見定めて、
御堂は琴平重郎の罠を警戒している。
…どうやら疑心暗鬼に陥っているようだな。
今まで不意をつかれてきたために、
琴平重郎に対しても必要以上に警戒してしまうのだろう。
この試合においては何を試されるのか?
疑問を感じているのは御堂の表情を見れば一目瞭然だった。
…このままなにもしないつもりか?
それでは試合が進まないのだが、
御堂が動かなければ琴平重郎も動かないはずだ。
そのことは最初から分かっている。
…この試合に仕掛けた策は琴平重郎が動かないということだからな。
試合の方針を伝えたわけではないものの。
琴平重郎は自らの判断でやるべき役目を理解しているようだ。
…御堂にとっては最も苦手な選択肢になるだろう。
だからこそ御堂が乗り越えるべき試練となり、
御堂のためにやらなければならない試験でもあった。
…それに、琴平重郎にしても本望だろうからな。
多くの仲間を失い。
娘を死なせておきながらも自分は生き残ったこと。
その罪の意識を払拭するために、
痛みを負うことを望んでいるはずだ。
…心の弱さを利用してばかりで悪いが、これもお互いのためだ。
御堂と琴平重郎。
それぞれの弱点を克服するために。
この試合を組んだ。
…さあ、乗り越えて見せろ御堂。
決して動かない琴平重郎を制して次への道を切り開くこと。
その選択を選べるかどうかを見定めるために観察を続けることにした。




