罪を背負う者達
「きみはまだ気づいていないようだな。だから何故俺がこの舞台に立ったのかを説明しておこう。」
西園寺つばめも気にかける黒柳の役割。
それが何だったのかを語り始めた。
「きみは今回の戦争で多くのことを学んだはずだ。」
魔術師が抱える苦悩と絶望。
そして他国が感じる恐怖と戦慄。
「それらを知り、多くの犠牲の上で出したきみの答えは『二度と悲しみを繰り返さない平和』だった。そうだろう?」
「…は、はい。そうです…。」
「うむ。」
倒れたままでも肯定してみせた御堂の返事を聞いてから黒柳は話を続けていく。
「きみの理想は実に素晴らしいと思う。」
だからこそ黒柳自身も賛同して、御堂に手を貸してきたのだからな。
いまさら御堂の理想に対してああだこうだと意見するつもりはないだろう。
「少なくとも、もしも実現できるのであれば栗原君の言う『誰もが笑って暮らせる世界』を見てみたいとさえ思っている。」
「…それは僕も同じです。」
「だろうな。だからこそきみはこの国の代表にふさわしい逸材だと思うのだ。だが、だからこそ忘れてはいけないこともある。」
「忘れてはいけないこと?」
…そう。
それがとても重要なことだった。
御堂がこの世界を正しき方向に導こうと思うのなら。
そして御堂がこの世界を光の満ち溢れる幸せな世界にしたいと思うのなら。
決して忘れてはいけないことがある。
「それは…何ですか…?」
いまだに答えに気づかない御堂だが、
それでも御堂はすでにその答えを知っているはずだ。
「きみはもう知っているだろう?きみの理想を守るために戦う仲間がいることを。そしてきみの未来を守るために罪を背負う者達がいることを。」
「僕を守るために…?僕の代わりに罪を…?」
…そう、それが答えだ。
黒柳の説明を聞いた御堂はようやく真実にたどり着くきっかけを手に入れた。
「そうか…。」
僅かに困惑の表情を見せてからようやく答えにたどり着いた御堂は、
黒柳の意図する言葉の意味をついに理解したようだった。
「それが世界の闇であり、共和国の暗部…ということなんですね。」
…正解だ。
「今まで僕が目を逸らしてきた事実。そのことを教えるために…そのためにわざと…僕を…?」
「ははっ。」
御堂の考えを察した黒柳がようやくいつもの表情を取り戻した。
「答えに気づいたのならばもう十分だろう。あとはきみが俺を乗り越えるだけだ。」
「…え?まだ、続けるのですか?」
「当然だ。きみが自らの弱さを知り、自らの意思で乗り越えることに意味があるのだからな。」
「ただ気づくだけでは…足りないのですか?」
「言ったはずだ。乗り越えることに意味があるとな。」
真実と向き合い。
それでも歩み出す勇気が御堂には必要になる。
「そうでなければ俺達が命を懸ける意味がない。」
「僕のために命を懸けてくれる人を…僕は…斬らなければいけないのですか?」
傷つけあうことに意味があるのではない。
「真実を受け入れた上で立ち向かう勇気が必要なのだ。」
「そのために…悪役をかってでたんですね。」
…そういうことだ。
「俺の努力を理解してくれるのならばいつまでも転がっていないで戦う意思を示してくれ。そして現実と向き合って、その先の未来を目指してくれればいい。」
「…分かりました。」
黒柳の想いを受け取ってゆっくりと立ち上がる。
そんな御堂の精一杯の行動を見守る黒柳は、
もはや攻撃の意思を見せずにただ静かに終焉の時を待っていた。
「逃げることなく、現実と向き合うのだ。」
「…はい。」
想いを告げる黒柳に一度だけ謝罪してから、
御堂は手放していたルーンを引き寄せて狙いを定めた。
「このご恩は…一生忘れません。」
精一杯の感謝の想いを込めて神剣を振り抜く。
その鋭い刃が黒柳の体を切り裂くと同時に。
「…いい一撃だ。きみの覚悟を…確かに見届けさせてもらった…ぞ。」
黒柳は最後の想いを残して試合場に倒れ込んだ。




