きみには失望した
「…これも真実なのだ。」
「米倉様…?それは…どういう意味ですか?」
今まで信じていたものが信じられなくなったのだろう。
そんな西園寺つばめ悲しみを和らげるために宗一郎が説明を続ける。
「きみが知る黒柳大悟という男は、まぎれもなくきみが思うような人間だ。だが、きみが知らない一面があるのも事実なのだ。」
「それが…それが今の所長ということですか?御堂君を殺すつもりで攻め続ける今の所長が…?」
「………。」
同一の人物だとは思えないと考える西園寺つばめの言葉を聞き取りながらも、
黒柳は決して手を緩めることなく攻撃を続けていく。
「エクスカリバー!!!」
必死に逃げ回ることしか出来ない御堂を容赦なく追い立て続ける。
そんな黒柳の姿が西園寺つばめには信じられないようだった。
「今の所長は私の知る所長とはかけ離れています。」
狂気の世界で殺戮を繰り返す殺人鬼。
そんな黒柳の姿を直視することさえできずに、
西園寺つばめは視線をそらしてしまっていた。
「今の所長は…私の知る所長ではありませんっ!」
苦しむ御堂を全力で追い込み。
死の危機に追い詰める。
そんな黒柳の姿を拒絶していた。
「私の知っている所長はこんな人ではありませんっ!」
他の誰よりも絶大な信頼を寄せていた黒柳の本当の姿を知ったことで何もかも信じられなくなったようだな。
「これは…これはもう…。」
「…そうか。残念だが、きみには失望した。」
人でさえないとさえ考え始める西園寺つばめの発言を宗一郎が遮った。
「もはやきみがここにいる価値はない。黒柳の本心が見抜けないのならば早々にここから立ち去れ!」
「…えっ?」
強くはっきりと宣言する宗一郎の言葉の意味に戸惑う。
そして何も言えなくなってしまった西園寺つばめに意識を取り戻したばかりの藤沢瑠美が語りかけた。
「あ~あ~。つばめったら本当に私がいないとダメな女よね~。」
「るっ、瑠美!?」
意識を失っていた藤沢瑠美が目を覚ましたことにも驚きを感じる様子の西園寺つばめだが、
今はそれよりも親友の言葉に対しての動揺が大きいように感じられる。
「瑠美は知ってたの!?」
「さあ?そんなことはどうでも良いじゃない。」
「…は?」
今の黒柳の姿を知っていたのかどうか?
その問いかけに対する藤沢瑠美の答えはとても簡単な言葉だった。
「今の所長がどうとか、真実がどうだったとか、そんな些細なことはどうでも良いじゃない。」
「そ、それは…どうかと思うけど…?」
「そう?まあ、私にしたって、つばめにしたって、隠し事の一つや二つくらいあるのが普通じゃないの?」
「それは…まあ…。」
「でしょう?それが所長の場合はこんな感じです、っていうだけのことでしょ?」
「だ、だから…そこが…。」
「そこが、何?自分の理想と違うから、自分の期待と違うから、だから所長が嫌いになったの?」
「い、いえ…。そ、そこまでは…別に…。」
「でも、今のつばめの言葉を考えればそういう意味にしか聞こえないわよ?」
「………。」
親友の指摘を受けて再び何も言えなくなる。
その明らかな迷いに対して藤沢瑠美は道を示そうとしていた。
「結局、つばめはどうしたいの?所長のことが好きなんでしょ?だから自分を裏切ってほしくないって思うんでしょ?だったらつばめはどうするの?」
「わ、私…は…。」
「所長の全てを受け入れるの?それとも自分の理想を押し付けて、自分の気持ちや感情を所長に強制するの?」
「そ、そんな…つもりは…。」
「だったらどうするのよ?」
「私は…。」
「本当に所長のことが好きなら、もう少しちゃんと見てあげたほうがいいんじゃない?あんなに辛そうな表情の所長なんて、たぶん滅多に見れないわよ。」
「…え…っ?」
藤沢瑠美の言葉を聞いて即座に黒柳に視線を向ける。
「…な…涙?」
西園寺つばめの鋭い瞳が映し出したものは、
微かにきらめく一粒の想いだった。




