今までの所長は
「これが…所長…なの?」
今まで見たことのない黒柳の姿を見た西園寺つばめが困惑している。
「いつもはもっとこう…穏やかというか…余裕があるというか…。」
放たれる覇気が真逆の性質を放っていることに気付いたのだろう。
威厳はあっても威圧はないと考えていたようだが、
目の前の黒柳からは背筋が凍りつくほどの威圧感が感じられることに戸惑っている様子だった。
「これが…これが本当の…所長の姿…なのですか?」
自分が知っている黒柳とは全く真逆の異質な存在。
その違和感が西園寺つばめには理解できないようだ。
「これは…どういうことですか?」
藤沢瑠美も隠していた真の実力。
そんな親友に続いて自分の上司も別の存在として御堂を追い込んでいる。
その急激な変化に対して西園寺つばめの思考は追い付いていないようだった。
「これが…これが本当の所長なのですか?」
「………。」
問いかける言葉に黒柳は何も答えない。
ただ悲しみを感じさせる瞳で西園寺つばめを一度だけ見つめてから攻撃を継続していく。
「こんな…こんな所長は…初めて見ました…。」
戦時中でさえも見せなかった威圧感。
それはまさしく『殺気』であり、
御堂を殺すつもりで戦っている証でもある。
「今までの所長は…全て嘘だったのですか?」
「………。」
迷い悩む西園寺つばめの激しい動揺を見かねたのだろうか。
これまで黙って様子を見ていた宗一郎がゆっくりと語り始めた。




