優しくしてね。
「う~ん、まさか御堂君と戦う日が来るなんて思ってもみなかったんだけど、こうなった以上は仕方がないわよね…。」
試合開始早々に落ち込んだ表情を見せる藤沢瑠美は、
幾度となくため息を吐いてから正面の御堂に話しかけた。
「まあ、とりあえず戦闘は専門外だから大して抵抗できないんだけど、あまり痛い思いはしたくないから優しくしてね。」
「あ、は、はい。分かりました。」
出来るだけ楽に敗北したいと願う藤沢瑠美に御堂は素直に答えている。
「なんとかしてみます。」
出来る限り力を押さえて戦うことを約束していた。
そのおかげで余裕を取り戻せたのだろう。
藤沢瑠美に笑顔が戻る。
「ありがとう、御堂君ならそう言ってくれると思っていたわ。」
「………。」
これで痛い思いをせずにすむと喜ぶ藤沢瑠美を見て気になったのだろう。
「それだと試合をする意味がないんじゃないかしら?」
「え~?」
西園寺つばめが問いかけていたが、
藤沢瑠美は笑顔のままで聞き流してしまう。
「つばめだって怯えて震えてただけで何も出来なかったんだし、私だって怪我をしなくてすむのならそのほうが良いに決まってるじゃない。」
「…ぅ。」
事実を指摘されたことで何も言えなくなってしまったのだろう。
西園寺つばめは何も言えずに大人しく引き下がっていた。
「それじゃあ、始めましょ。」
親友の意見を却下した藤沢瑠美は、
完全に油断した状態で御堂と向かい合う。
「よろしくね~。」
「………。」
全く戦う気を見せない藤沢瑠美の態度に西園寺つばめは不満そうな表情を見せているが、
宗一郎と黒柳は冷静に試合を眺めていた。




