相性を試す試験
魔術名『テンプテーション』
西園寺つばめが発動した魔術は俺が理論を組み立てて黒柳や西園寺つばめに継承した思い出深い魔術なのだが、
現在のテンプテーションは俺の理論に改良を加えたことによって以前よりもさらに回避しにくい魔術に性能を高めているようだった。
…想定外だな。
西園寺つばめなら必ずこの魔術を使用して御堂の精神を揺さぶるだろうと考えていたのだが、
まさかこれほど極めているとは予想していなかった。
…良い意味で面白い展開になるな。
俺の期待を越えて予想以上の展開を見せた西園寺つばめに称賛の想いを込めながら二人の試合を観察していると不意に西園寺つばめが笑顔を見せた。
「ふふっ…。なるほど、そういうことですか。」
どうやら西園寺つばめは自らの役目を理解したようだな。
「これは相性を試す試験ということですね。」
曲を止めて呟いたことで一時的に拘束を解かれた御堂が慌てて立ち上がろうとしているが、
自分の役目を理解した西園寺つばめは再びフルートを構えてしまう。
「そういうことなら、お任せください。」
「ぐっ!?ああああぁぁっ!!!」
唇から吹き抜ける吐息が曲を奏でると同時に御堂が頭を抱えながら苦しみだす。
…さあ、どうする御堂?
初戦からつまづく御堂がどうやって西園寺つばめを乗り越えるのか?
その結末を楽しみにしながら勝負の行方を眺めていると、
御堂は拘束結界の影響を受けてルーンを発動することさえできないまま再び試合場にひれ伏した。
「くっ…。これは…分が悪すぎる…っ。こ、これが…総魔の考えた…結界なのか?」
…まあ、間違いではないな。
実際には発展型と言える魔術なのだが、
今の御堂に違いは理解できないだろう。
「これが…僕の乗り越えるべき最初の試験…?」
…そう。
これが最初の試練になる。
魔術を封じられたことで倒れ込む今の御堂は、
全くと言っていいほど戦いにならない状態だからだ。
…さあ、どうする?
拘束結界を展開する西園寺つばめも攻撃できない状況なのだが、
精神的な負荷を受ける御堂が意識を失った時点で西園寺つばめの勝利は確定する。
…対魔術師戦において最も効果的な戦術。
…ここをどう乗り越えるかが最初の課題だ。
御堂が拘束結界の突破口を見いだせるかどうかが最大の焦点となるこの戦い。
その行く末を見守っていると。
「僕は…っ!」
御堂は魔術による迎撃ではなくて自らの気力だけで立ち上がってみせた。
「僕は総魔の魔術に屈しないっ!!!」
理論や技術を無視して強引に立ち上がる。
その代償として激しい頭痛に悩まされながらも必死の思いで立ち上がった御堂は、
ふらつく足取りで西園寺つばめに向かって歩みだす。
「僕は…負けないっ。貴女にも…っ。この音にも…っ。そして総魔にもっ!!絶対に負けないっ!!」
気力だけで体を動かして西園寺つばめに手を伸ばす。
「貴女の音を…封じます…っ!」
「…っ!?」
御堂の気迫に怯える西園寺つばめの口許からフルートを引き離した直後に。
「魔壊っ!」
御堂は西園寺つばめのルーンを強引に破壊してみせた。




